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掌編小説「タイムリープ」
故郷には、私にしか知らない良い場所があるんだ。
そこは森を抜けた先の小高い丘にあって、街を一望できる。君にも一度見せてあげたいと思うくらい、絶景なんだ。でも、そこで誰かと会ったことがなくて、きっと私だけの穴場なの。だから、その風景を独り占めしたくて、今まで誰にも教えたことがないんだけど…これは君と私の秘密にしておいて欲しい。
さて、話が逸れたね。……あの日のことはよく覚えてるよ。
その日はいつものように、そこでお昼寝をしていたんだ。風が心地よく吹いて、木陰から漏れる光は寝るのにちょうど良くってね。ウトウトしてたんだ。いや、眠っていたかもしれない。
そんな狭間を行ったり来たりしていた時、あまり聞きなれない音がしたんだ。…ほら、よくSFでゲートが開くような、あの音。
その音で目が覚めてね。起き上がったら、目の前に見知らぬ人が立っていたんだ。しかも、どう見てもこの時代の人じゃなくって、未来から来ましたと言っているような服装で。
私は「まさか…奇跡的な瞬間に居合わせてしまったのか…?」と驚いてたら、その人が、「やっぱりこの時代の空気はおいしい!」って叫んで。あぁやっぱりこの人は違う時代の人だと思って、恐る恐る声をかけてみたんだよ。「あのーー…」って。
そしたら、私と同じような顔立ちでさ、振り向かれてまたびっくりしっちゃって。その顔で「やぁ!」って軽快に挨拶するもんだから、何も聞けなくなっちゃってさ。そしたら、その人が次に発した言葉が、「ぴったりだね!」って言ったもんだら、「何が??」って聞き返したかったんだけど…。
言葉を発する前に、胸ぐらをいきなり掴まれて、まさにハンマー投げでもするかのように、あの人が来たゲートに放り込まれてさ。
で、入れ替わりで未来(ここ)に来ちゃった訳さ。
最初は本当に訳が分からなくてさ、いや今もだけど。もう一回あの時代に戻れるのなら、戻りたいよね。こんな機械仕掛けの太陽や風じゃなくてさ、本物をもう一度浴びたいよ。