見出し画像

ザナトアには娘がいた

 続キリでの大きな柱であったエクトルとザナトアの関係性。彼等の間柄を名前にするのであれば師弟関係が一番即しますが、親子でもあります。勿論、本当の親子ではありません。エクトルは一応クヴルール姓ですが、ザナトアはクヴルールとはまったく関係がありません。幼い頃家族関係が良くなかったエクトルはポケモンの育成に没頭し、育て屋をひとりで切り盛りしていたザナトアのもとに突撃し、彼女の元で学ぶようになります。そうしてザナトアはエクトルのことを、本当の息子のように慕うようになったし、エクトルもザナトアのことを、尊敬と同時に親のような情を向けていました。
 そんなザナトアですが、独身です。
 ブリーダーとしての仕事人間一色で生きてきて、男に揺れる暇がありませんでした。
 しかし、没ネタではザナトアは結婚しており(後に離婚して現在に至る・その理由もまた仕事だった)、娘までいたという設定がありました。ただその関係性はあまりうまくいっておらず、娘は家出したままほとんど絶縁、その家出先は首都で、ザナトアも首都にいるということは知っています。だからザナトアは首都があまり好きではありません。関係性が良くないとはいえ血を分けた一人娘をとられたようで。だから、アランが続キリの最後で首都に帰ると言った時、露骨に嫌な顔をする、という展開が予定されていました。
 そして、これから先、アランが首都に戻ったとき、このザナトアの娘と出会うという展開がありました。娘は首都の郊外に住んでおり、仕事の際にはセントラルの歓楽街で水商売をして稼いでいます。その中で相手も分からぬ生命を授かりシングルマザーとしてなんとか生きているというまあまあ重いキャラクター像が生み出されていました。
 これは意外とザナトアというキャラクターを創り出した時に一緒に生まれていた設定なので、割と以前からありました。
 それでも続キリを実際に作るという段階になって、ただでさえキリを成す柱があまりにも多いことをようやく実感します。ラナ(アラン)、アメモース、ブラッキー、ザナトア・エクトル、クヴルール、キリの歴史、クラリス、水神、秋季祭、などなど。ツイキャスを聞いてくださった方には話が重なりますが、続キリはまっしろな闇という大きなくくりでいえば、黒の団との因縁をめぐる主旨とは少し外れる部分があります。とはいえ主人公であるラナが関わるので、ラナを主軸にすれば勿論超重要ですし、欠かすことのできない重要な部分です。つなぎだけど、つなぎといいきれない、不思議な章。
 そんな続キリに、「ザナトアの娘」というエッセンスは余計かもしれない、と思い始めました。
 ザナトアとエクトルの関係性は、大切なものです。すれちがい続ける二人。失われても壊れても、また向き合えば取り戻すものもある、という続キリの一つの希望を形作る二人。それぞれ考えがあるけれど、「痛み分け」でとんとんにしてチルタリス達を失った哀しみを共有する二人。
 エクトルと育て屋のポケモンたちがいれば、充分、ザナトアのつくる「親子」や「家族」というテーマは成り立ちます。ザナトアがポケモンより人間関係に対して不器用なのは、娘や夫という存在がなくても良いかもしれない。むしろ、これらをなくすことで、彼女の周りはシンプルになり、ザナトアとエクトル、ザナトアとアラン(ラナ)、ザナトアとポケモンたちという構図が分かりやすく、お互いを殺すことなく引き立つのかもしれない。
 恐縮ながら、当作品は生死を何度も問い、家族を何度も問います。ザナトアの娘は、サブキャラクターではあるけれど、その問いかけにエッセンスを加える、ラナたちにまた一つ考えさせるきっかけをもたらすキャラクターでした。ゆくゆくはザナトアと再会する、という結末もありましたが、この「再会」は、ザナトアとエクトル、あるいはラナとクラリスといった、続キリだけでも既に充分すぎる展開が必定です。
 ザナトアの娘には申し訳ないけれど、彼女がいないことで、より世界を深める方法を選ぶことにしました。
 新キャラクターの投入は、楽しくて、簡単でもあり、同時に難しいです。こういう群像劇、旅物語だと余計に簡単だからこそ軽率にどんどん使いたくなります。新しいキャラクターは、それだけで物語を活気づけるし、新しい風を作ります。だけど、それぞれがもたらす影響は、時に物語を不要なほどに歪める可能性がある。つまり、難しい。
 旅物語なのでどんなキャラクターが入ってきても比較的違和感はないというバックグラウンドがありますが、そこに甘えてやりすぎると首を絞めてしまう。
 何が一番大切なのだろう?
 要は優先順位の問題でしょうか。
 ザナトアは、その分野において名声を得ながら、たくさんのものを失ってきた人間です。そんな彼女に、本当の家族の喪失という過去まで背負わせるのは、すこし重たすぎる。ザナトアもエクトルも大切なキャラクターですが、あくまでサブキャラクターですから。
 そうしてふるいにかけて、ザナトアの娘、そしてザナトアの夫は消滅し、ザナトアは生涯独身というキャラクターになりました。
 これが良いことなのかどうかは、分かりません。でも、ポケモンに生涯を捧げるザナトアの生き様からすれば、この選択も間違ってはいないのではないかな。
 小説って、難しいですよね。長編だからなんでも詰め込んでそれでオッケーじゃないんだなって。なんでしょうね、長くなってきたからこそ、全体を折り返したことで結末を以前より明確に意識するようになってきたからこそ、しみじみと思います。私に、どれだけキャラクターを入れてもうまく料理するような文章力があれば良かったかもしれませんが、そういうわけではないので、作っては捨てて、加えては削いで、その繰り返し。先日のイーブイの没ネタと内容は少し被りますが。それが難しくて、答えなんてどこにもなくて、だからとてもしんどくて、迷ってばかりで、楽しくて、やりがいがあるんですよね……。

 夫は元々設定だけで出演予定が無かったんですが、娘ちゃんには、いろんな台詞がメモとして残されています。
 この台詞、彼女が吐く可能性はもう消え失せましたが、いつか別の誰かの口から吐き出されるかもしれないので、もう少し私の中にしまっておこうと思います。
 もしもいつかその中から使う時がきたら、またこうしてネタばらしをしましょう。


まっしろな闇へのリンクはこちらから。


たいへん喜びます!本を読んで文にします。