「夜想曲 BGM maker」
続キリ編を書き終わってから、119話に素敵な曲を頂戴しました。作品を通して生まれた曲の話も近いうちにするとして、今回は少しさかのぼり、その119話を含めた水底の話を創り上げたこの「夜想曲」を紹介します。どっちがどうというわけではなく、私にとってはみな大切です。
最近は日本語歌詞の歌でも集中していれば文章を書けるようになってきましたが、今でも、歌詞の内容に思考が邪魔されて「あーっあの言葉……なんだっけ……今この瞬間に合うと思うんだけどそもそもなんだっけ……」という語彙力の低下に繋がる瞬間に激突するので、文章そのものに集中したいときは、無音、あるいは洋楽や今回のようなインストロメンタルに大変お世話になります。BGM makerさんは感性を静かに刺激される楽曲をありがたくも広告無し・一時間近くひたすらループ・一つの曲にピアノ・オルゴール・オーケストラなど様々なバリエーションで提供してくださっています。制作に飽きたらその場面に合う曲を探すのも気分転換の一つですが、続キリ編の水底シーンを作るのにBGM makerさんの楽曲をいろいろと漁り、中でこの「夜想曲」に出逢いました。
ピアノもオルゴールも良いのですが、水底は、切なさだったり、重苦しさだったり、壮大な設定だったり、身近な愛情だったり、いろいろと詰め込まれたファンタジーな場面なので、荘厳かつ繊細なオーケストラの曲調がよく似合います。
下手に言葉にするよりも、じっくりと聴いていただくのが一番適している気がします。音がしんみりと染み込んでくる感じ。
しろ闇全体が勿論そうではありますが、水底を描いた117話~119話は、とりわけ私自身が影響を受けてきたものを凝縮しています。この場所に行く展開自体はずっと考えていたのですが、実際に描写するとなると、ファンタジー性が強いゆえに、油断すれば空回りして悪い意味で浮きます。続キリ編の中でも、具体的なモチーフを組み合わせながら雰囲気を作りあげてきました。大きな柱が四つ。一つ、マジカルバケーションで受け取った数々。これは一つで表せませんし、水底に限らずまっしろな闇はマジバケに強い影響を受けています。二つ、デジモンアドベンチャーの51話に出てくる闇の洞窟。自己嫌悪に陥るヤマトや、重圧に負けそうになる空が救われる場面が印象的な場所です。三つ、屋久島の縄文杉へ続く森。洞窟を抜けた先で水神に出会うというイメージは随分前からありましたが、その洞窟に至る場面をどうするかと構想を練っていた頃、屋久島の森を歩き、あたりが暗く碧い暗闇に包まれた鬱蒼とした水底の森のイメージが浮かび、これしかないと思いました。四つ目が、この「夜想曲」です。四つの柱とは言いましたが、他の三つが水底の展開や情景のもとを作っているのに対し、この「夜想曲」はそうしてイメージした水底を成熟させた柱だと思います。なので、最終的にはこの曲によって水底が創られたといっても過言ではありません。
水神とクラリス、噺人を中心としたキリの歴史、文化。水底にはびこる、絶望し忘れられながらも、消えることもできずに漂い続ける目に見えない魂。水神の数々の言葉、アランとのやりとり。友を喪い、魂を慰めながら、かつての本来の役割から変容し今や心のどこかで自分は本当のところ必要とされないのだと理解していながらも、人間を好きだといい、クラリスを噺人として選んだ水神。哀しみ。寂しさ。閉鎖された空間でありながら、幻想的。やや壮大というか、現実とは異次元である場所での展開の中に、死者に向けて祈り意識を集中させるといったことをはじめとして、どこか身近な感性をちりばめたり。なかなかね、一言で表せないですね。うん。この曲を聴いてると、なんだか、この曲が私の言いたいことを代わりに表してくれている気がするのです。
この物語は、たくさん傷つきながら、何かを得ようとする物語です。アランが、水底を出て、このキリから続く道がたとえ暗闇だと彼女自身覚悟していたとしても、「誰もが闇に同化しても、導が心に宿っていれば、暗闇の中でもきっと歩いてゆける」と至る。
そんな大事な場面の、源となった曲です。良かったら、これを聴きながらまた読み返してみてください。特に、水神と直接やりとりするあたりからはよく合うと思います。読み返さずとも、「もう会うことはない」水底の世界に思い馳せてくださったら幸いです。
たいへん喜びます!本を読んで文にします。