迷宮の主 第一話

「ふざけるな!」
 王宮の主は王座より立ち上がり声を荒げた。振り上げたワンドを見下ろした二人組に向ける。
 大理石の敷き詰められた謁見の間に控える二人の男。一人は大男だったがバランスの取れた体躯をしている。白いシャツに包まれ下は黒で統一されていた。もう一人は若者で大男より頭一つ半ほど低いがそれでも一般的な男性よりも大きいことには間違いはなさそうだった。大柄の男とほぼ同じような姿だったが、彼よりもチョッキが一枚多いだけで同じような服装だった。優しく微笑む顔には明らかな余裕があった。
 王は、二人の男を数段高い玉座に座り彼らを見下ろしている。王の顔は屈辱で歪んでいた。謁見の間の左右には儀礼用の槍を手に兵士たちが成り行きを探っていた。先の丸い槍は殺傷能力こそ低いだろうが、二人を捕らえることなど造作も無いことであろう。
「やはり迷宮よりの使者など迎えるべきではありませんでした」
 王の足元にまだ他に人間がいた。この国の大臣だ。大臣は二人の男たちと同じ高さに立ち、彼らをにらみつける目には濁りが見えた。
「俺は言いたい事を伝えただけだ」
 若者は臆することなく言ってのける。王の目が見開かれると大臣はそれを感じ取って若者を指差した。
「貴様!」
 若者はくるりと王に背を向けると謁見の間を離れていく。大男がそれを見て鼻で軽く笑って若者についていった。
「殺せ!」
 王が叫んだ。兵士たちが槍を構えるよりも早く若者が振り返った。真っ赤に燃え上がる瞳の輝きが、謁見の間の空気を凍りつかせ、その場にいるものの動きを止めさせた。
 大男だけが悠然と歩いている。
「俺をただの使いだなんて思わないほうがいいぞ」
 そう吐き捨てると若者と大男は謁見の間から立ち去った。その場から二人が消えても誰一人身動きするものはいなかった。


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