食器の共有はOK? NG? 歯のケアが謎すぎるので勉強してみた
結論から言います。
・食器の共有は、しないにこしたことはない
・むし歯予防のためには、ハミガキ+歯医者
以前から、子どものむし歯予防のために食器を共有しないようにと言われています。しかし、8月31日に日本口腔衛生学会から「食器の共有をしないことでう蝕(筆者注;むし歯)予防できるということの科学的根拠は必ずしも強いものではありません」という文章が発信されました。
科学者の集まりである学会的には「むし歯予防=食器の共有をしない」という風に言われているのを見過ごすことができず、このような発信に至ったのだと思います。でもママさん界隈からすると、離乳食教室でも育児雑誌でも食器は共有するなと言われているのに、どういうこと??? と混乱を招きました。
ソースを辿ると、5月24日に和歌山県立医大から唾液接触とアレルギーに関する論文が出ており、アレルギーとむし歯の話がこんがらがってややこしいことになっていました。
話がややこしいので、この記事ではまず「むし歯予防」の話をします。その後「アレルギー」の話をします。興味ある方はぜひ読んでいってください!
●むし歯予防には、菌を移さない・増やさない
①菌を(できるだけ)移さない
むし歯は菌が増えて、歯を溶かすことで起こります。生まれたての赤ちゃんの口の中には菌がいないので、理想的には菌を移さなければ一生むし歯になることはありません。
しかし、菌を移さないことは絶対に無理です。これは絶対と言い切って大丈夫なほど、無理です。菌が移るシチュエーションは無限にあります。
・大人が口に入れた食器を赤ちゃんの口に入れる(食器の共有)
・大人が離乳食を冷ますためにフーフーする
・大人が使っているコップを赤ちゃんも使う
・大人が赤ちゃんにチューする
・赤ちゃんが大人の口に手を入れてくる(そしてその手を自分でなめる)
熱いものを冷ますためにフーフーするだけで感染すると言われているので、くしゃみやせき、話しているだけでもむし歯菌が感染しているかもしれません。赤ちゃんは何でも食べるので、大人が落とした食べかすを気付かないうちに食べてむし歯菌が感染しているかもしれません。
どうせ感染してしまうなら食器を共有してもいいんじゃないの? と思ってしまいそうですが、菌が1個いるのと100個いるのでは話が違います。1週間で1個の菌が128個に増える場合(1→2→4→8→16→32→64→128)、同じ時間で100個の菌は12,800個に増えます。次の1週間では、元の菌が1個なら約1.6万個、元の菌が100個なら約160万個です。
感染している菌の数が少なければ、菌が増える量も少なく、むし歯リスクを下げられます。だから赤ちゃんに菌をできるだけ移さないにこしたことはありません。食器の共有はやめましょう。
ここで言う「食器の共有」は、大人が口に入れた食器を赤ちゃんの口に入れることです。大人の口には数十億のむし歯菌がいると言われているので、食器の共有をしてしまうと大量の菌が赤ちゃんに感染してしまいます。
大人が使った食器をきちんと洗剤で洗って乾かし、別の時に同じ食器を赤ちゃんが使うのは食器の共有とは言いません。もしかしたら微量のむし歯菌が残っているかもしれませんが、日常生活で感染するレベルとして捉えられます。
②菌を増やさない
むし歯は菌が増えて、歯を溶かすことで起こります。菌が増えなければむし歯にはなりません。
むし歯の菌が増えるためには栄養が必要です。菌の栄養は糖です。
でも糖は通常の食事(お米、パン、野菜、果物など)に入っているので、糖の摂取を控えることは無理です。生命維持に問題が生じます。
糖はみんな必ず食べるのですが、むし歯の菌が糖を食べて増えないように、食後すぐにハミガキするのが大事です。
菌はバラバラに増えるのではなく、歯垢のある所に集まって糖をエサにして増えるので、食後すぐのハミガキで歯垢と糖を洗い流すことで菌を増やさないようにします。
一時期、食後30分程はハミガキしない方がいいという言説が出回っていましたが、日本小児歯科学会からむし歯予防のためには食後すぐにハミガキすべきと声明が出ています。
ではハミガキさえしていればいいのかと言うと、そうではありません。ハミガキで落ちない汚れがあるので、定期的に歯医者を受診してクリーニングしてもらいましょう。フッ素塗布などもしてもらえます。
ここまでがむし歯の話でした。結論を再掲します。
・食器の共有は、しないにこしたことはない
・むし歯予防のためには、ハミガキ+歯医者
まぁ、当たり前のことですね。子どものハミガキ大変ですが、頑張りましょう。
次にアレルギーの話です。
●唾液接触がアレルギーを予防する?
5月24日に和歌山県立医大から、乳児期の唾液接触と学齢期のアレルギー発症リスクとの関連性を調べた論文が発表されました。衝撃的な内容です。
・赤ちゃんの時期に食器を共有していた人は、小学生でのアトピー性皮膚炎の発症リスクが低い
・赤ちゃんの時期におしゃぶりを親の唾液で洗浄していた人は、小学生でのアトピー性皮膚炎とアレルギー性鼻炎の発症リスクが低い
「おしゃぶりを親の唾液で洗浄」?!! 意味わからんのだが。赤ちゃんの使ったおしゃぶりを親がぱくっと口に含んで親の唾液を付けるということ? 洗浄??? それは汚染。
そんなことをしている人が現代日本にいるのか甚だ疑問なのですが、今回の研究によると5%くらいはいるらしい……。その5%の人たちは、アレルギーを発症する割合が低かったそうです。
この発表を受け、メディアは「食器の共有でアレルギー発症リスクが下がる。でも食器の共有はむし歯につながるかもしれない」と報道しました。納得できる内容です。
しかし、むし歯予防=食器を共有しないことだけではない(ハミガキや糖摂取を控えることが大事)ので、日本口腔衛生学会は説明文書を発表し、その中に「食器の共有をしないことでう蝕(筆者注;むし歯)予防できるとい うことの科学的根拠は必ずしも強いものではありません」という文章が入っていたのでした。
では結局、食器の共有をした方がいいのかどうかというと、結論は変わりません。食器の共有は、しないにこしたことはない。理由を2点挙げます。
1.積極的に食器を共有する理由がない
学会の文書で「食器の共有に気を付けていても、子どものう蝕(筆者注;むし歯)に差はなかった」と記載があります。たしかに食器を分けていてもむし歯になってしまうかもしれません。しかし積極的にむし歯の菌を感染させる理由はありません。口腔内には他にもたくさんの菌が何億といるので、日常的に食器を共有していたらどんどん菌が移っていきます。
たまたまママが使っていたスプーンを赤ちゃんが食べちゃった、とか、義母が赤ちゃんにチューした、とかがあっても直接むし歯につながることはない、という風に理解するのがよいと思います。
というかさ、大人でも食器共有しないやん。たまにはパートナーに「あーん♡」とかやってあげてもいいけどさ。大人でしないことは子どもにもしない。以上。
繰り返しますが、大人が使った食器をきちんと洗剤で洗って乾かし、別の時に同じ食器を赤ちゃんが使うのは問題ありません。
2.唾液接触とアレルギーの関係はまだ研究不足
今回、和歌山県立医大から唾液接触がアレルギー発症リスクを低下させる可能性について研究が発表されましたが、類似研究はスウェーデンに1件あるくらいでまだまだ研究途上です。科学はたくさんのエビデンスを積み重ねて正しい・正しくないという判断をしていくので、今の段階では唾液接触とアレルギーについて結論を出すことはできません。
今回の論文でも触れられていますが、唾液接触をしていた人の数は少なく、十分な分析ができているか判断しかねる部分があります。
結局のところ結論は変わりません。
・食器の共有は、しないにこしたことはない
・むし歯予防のためには、ハミガキ+歯医者
唾液接触とアレルギーの関係については、現状結論を出すことができないので今後の研究動向を注視したいと思います。
最後に、今回の記事執筆にあたり参考にした書籍を紹介します。
著者は自身の経験から小児歯科に強い思い入れを持っており、歯育ての大切さが伝わってくる本でした。kindle unlimitedなら無料で読めます。
最後までお読みいただきありがとうございました! 子どもの歯のケアの参考になれば嬉しいです。ためになったよ、おもしろかったよという方は♡押して行っていただけると喜びます♡
《終わり》