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最近見なくなったカミキリ虫

仕事から帰ってきた母さんが、
玄関を開けるなり、
荷物を置いて、
外の花に水やりをしている様子だったが、
水やりを終えて、
なんだかぼそぼそと口を動かし、
けげんな顔をしている。
そして、
私がたっている玄関口の方へ。
私に気づいた母さんは、

『カミキリ虫』

と、
代車のボンネットの上を指さした。

母の指の先

たしかに、
何かいる。

でも、
目が悪い私には、
はっきりとその姿をカミキリ虫だと認識できない。

つっかけを履いて近づいた。

ボンネットのカミキリ虫

正真正銘のカミキリ虫だった。

『昔はよーけおったのに、
 今は見んようになったなー。
   今度は生きて会おうな。』

そう言って、
母さんは、
カミキリ虫を
山の土に還そうと、
カミキリ虫をがしりと掴んで、
緑の中に葬った。

白の斑点模様のあいつは
草むらに消えた。

あとから聞いた話だが、
花に水をやっていたら、
植木鉢の中でカミキリ虫が死んでいたらしい。

最近見なくなったカミキリ虫だから、
私に見せようとわざわざ
ボンネットの上に、
その骸を置いたらしい。

私が虫嫌いだと知っているはずなのに、
そうまでして見せたかった虫。
母さんにはどう映っているのだろう。

立派な触角と
白い斑点をまとった昆虫。
私にはそんなことしかわからない。

生きてその姿を表すのは、
母さんの前だけにしてほしい。、

そして、
母さんに
なんでそんなに見せたかったのか聞いた。

『やっぱり、気候がおかしい。』

だいぶ壮大なテーマだった。

遺影

ずっと、
虫や動物と共存したきた母さんにとって、
今までと異なる自然の変化は脅威なようだ。

そして、今、
とても敏感に感じ取っている。

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