1つの魂のお話 1

遠い遠い昔、私は誰かのために一生懸命に働いた。
その方が喜んでいただけるように、辛い仕事も頑張った。
灼熱の太陽の下でも、凍えるような寒さの中でも、その方が喜んで頂けるなら!
と思い一心不乱に働いた。

ある日一緒に働いている何百人の仲間と共に、手錠と足かせをかけられた状態で列になって、暗い地下室に並んでいる。
いつもと違う光景だ。進んだ先に何があるのかわからない。
長い列の先頭は、他の部屋のドアがありみんなその中に入っていく。
今からその中に入るらしい。その理由はわからない。

前に前に進むごとに、恐ろれがこみ上げてくる。
その部屋に入るのが怖くて、その部屋に入るのを拒んだ者がいた。
もちろん拒んでもその部屋に無理やり連れて行かれる。
その直後、さっき部屋に入るのを拒んだと思われる者がものすごい悲鳴を上げた。
今までそんな叫び声は聞いたことがない位の不気味な叫び声だった。
そしてプツリと静かになった。

その瞬間、隣にいた物がブルブルと震え出した。
普通叫び声を上げると、しばらく叫び続けたり、泣いたりして声がするはずなのに、プツリと声が聞こえなくなった。
どういう事なんだろう?
叫んでいたのに、いきなり止まって、どの後どうなったのだろう?
そしてなぜ隣の者は、ブルブルと震えているのだろう?

まさかではあるが、殺されるのか?
いやいや、そんな訳ない。
私は誠心誠意、一生懸命に働いてきた。
お褒めの言葉をもらった事だってある。
みんなのお手本だと言われた事だってあった。
それなのに、いきなり殺される訳がない。

そんな事を思いながらも、着実に列は前に前に進んでいく。
その部屋に近づくに連れて、悟っていく。
あぁそうか、殺されるのか。
理由はわからないけど、そうやって決められたのだ。

でもなぜだろう?
私は模範囚だった。
よく働くし、よく頑張った。
文句を言う者はたくさんいたが、私は文句一つ思った事も言った事もない。
心から尽くしてきたのに、何で殺されるのだろう?
それも、文句を言っていた人と同じ待遇で殺される。
なぜなのだろう?

前の方を見ると震えながら泣く者が増えている。
間違いない。
もう終わりなのだ。
怖い怖い怖い。
泣き出したいけど、泣くほどの余裕もない。
ここはグッと我慢して受け入れるしかないんだ。

でもどうやって?
いよいよドアの前にきた。
次に私たちのグループがその部屋に入る事になっている。
前にいる者の背中をじっと見る。
この者は、泣いていないようだ。
どんな顔をしているのかはわからない。
恐怖に満ちた顔をしているのかもしれない。
それでも、落ち着いているようにも感じる。
その者が平気そうにしていると自分も平気な気がしてきた。

順番がきた。
じっと前の者の背中を見つめて部屋に入る。
部屋の中では、例の王様が座っていた。
私はこの方のために尽くしてきたのだ。
このお方が喜んでいただければと思い、精神誠意頑張ってきた。
直接このお方から、お褒めの言葉もいただいた。
私の事を覚えていないのだろうか?
間違って、列に並ばさせてしまったのではないだろうか?
王様、私ですよ。
あなたのために心から尽くしてきた私ですよ。と懸命に王様の目を見て訴えかけた。
王様は私の目を見てくださった。
私の事を覚えているようだった。
じっと私の目を見て、コックリと頷いた。
その瞬間、目の前が真っ暗になった。

あぁそうか。
殺されたんだ。
こんなに尽くしてきたのに、殺されたのだ。
大変な事も王様が喜んでいただければと思って頑張ってきたのに、裏切られたのだ。
何が悪かったのだろう?
私は何かしたのだろうか?
なぜ殺されたのだろう?
よくわからない世界だった。

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