カーテンコールはいらない

 悪いことは重なるもの。
 別れ話を受け入れた帰り道、雨の中、電車に乗れず、傘もなく歩いていた。いつもとは違って、両肩が濡れている感覚が空しい。
 道端では、数日前にあなたが見つけた黄色いチューリップが散っていた。 教えてくれたはずの花言葉は、何一つ覚えていない。
 幸せの逃げ様は、花の散り方に似ている。
 花びらが一枚ずつ落ちていくように、別れる予感が近づいてきた。
 あなたは、花がいつか枯れることを、初めからちゃんとわかっていたのだろう。「ずっと」を言葉の通りに信じた僕は愚かだった。

 窓の外から、車の走行音や公園で遊ぶ子どもの声が聞こえた。いつもたくさんの音が鳴っていたことを、初めて知った。今までは部屋に音楽がかかっていたから。でも、もうその音楽がかかることはない。それが、この上なく残念でならなかった。
 あなたから多くのことを教えてもらった。
 あなたがいつも聞いていた音楽。ライブの後、興奮したり感動で泣き出したり、大好きなものに没入するあなたを見ることが好きだった。その姿を見て、僕も同じものを好きになりたいと思ったから、僕も毎日のように聞くようになった。
 季節の星座。覚えることは簡単なことではなかったけど、たくさん覚えるために一人で散歩にも行った。日本から見ることのできない星座があることを教えてくれたのもあなただった。なんとなく「観に行きたいなー」と言ったら、「一緒に南半球へ旅行しようね」って言ってくれた時は、わくわくした。
 朝の気持ち良さ。朝日を浴びながら「おはよう」を言い合う幸せや、誰かと食べる朝食の美味しさが身に染みた。毎日、同じような時間を過ごしたいと思った。
 良い思い出を懐かしんでしまう自分が嫌い。
 復縁などしたくない。綺麗で大切な記憶だけど、それに縋ってはいられない。他の人にあなたの影を探したくない。

 ヒロインからエキストラになったあなたへ
 そして、王子様になれなかった僕自身へ
 さようなら





(NOMELON NOLEMON「イエロウ」を聴きながら)

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