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黒ヤギと白ヤギ 上


★  ★  ★

僕の考えは正しかった。
君をこの小さな家に閉じこめることで、誰も君に振れさせないことにした。
君は小さいから、きっとうまく隠れられるはずだ、
僕は大きいけど、僕は赤い目を持っていないから見つかっても大丈夫だ。

★  ★  ★

この世界のどこかにある町。
小さな町。ヤギの町、

そこには青い目を持つヤギと、赤い目を持つヤギがいました。

ある日、ヤギたちの町で伝染病が流行りました。
町のヤギたちはどんどん死んでいきました。
1000人くらいいた町民のヤギたちは、伝染病のせいで半分以下まで減ってしまいました。

そんな時、ある一匹のヤギが言いました。
「赤い目のヤギの肉を食べれば伝染病は治る」

その一言から、青い目のヤギ達は赤い目のヤギを狙って、赤い目のヤギは青い目のヤギから自分の身を守るたに、町では戦争が始まりました。

ヤギの町で同じヤギ同士で殺し合う状況に耐えられずにいた青い目を持つ白ヤギのヤーは、友達の赤い目を持つ黒ヤギギーを守る為にこの町から逃げ出すことにしました。

☆  ☆  ☆

ヤギたちの争いが一旦静まった頃を見計らって、ヤーはギーの家に向かいました。

「黒ヤギさん、黒ヤギさん」
ヤーは近所の住民に聞こえないような小さな声で、ギーの家の玄関に向かって言いました。
ですが、ギーの家からは何も聞こえませんでした。
よくよく耳を澄ませると、ドアがパタンとしまるような音がしました。

ヤーはドアノブに手をかけて玄関が開かないことを確かめると、家の周りをグルグル回って、窓や裏口が開いてないか調べました。

☆  ☆  ☆

数時間前のことです。
きれいなオレンジ色の夕方でした。

ギーの家に青い目を持ったヤギたちが数匹入ってきました。
それから、ギーの家族達を捕まえてどこかへ立ち去っていきました。
ギーは青い目のヤギたちが来てすぐに、おばあさんに柱時計の中に隠れるように言われていて、彼らがギーを見つけることはできませんでした。

青いヤギ達が家族達を捕まえてどこかに行ってしまったあとも、ギーはおばあさんの言いつけを守って柱時計の中にいました。

☆  ☆  ☆

それから何時間か経って、当たりは紺色の闇につつまれて、次第に夜になりました。

黒ヤギのギーはまだ柱時計の中にいました。
そろそろ出て、どこか安全な場所に逃げようと考えていたところに、玄関の方から何やら声が聞こえてきました。
その声にびっくりしたギーは、一度あけた柱時計の扉をすぐにパタンと閉めました。

すると、その声の主が家の周りをグルグルと回り始めているような足音が聞こえてきました。
ギーは声を押し殺して、ただひたすら小さくうずくまっていることしかできませんでした。

☆  ☆  ☆

ヤーは家の周りをグルグル回っていると、やっと鍵の閉まっていない窓を見つけました。
その窓をあけて、飛び越えるようにしてそこから家の中へ入っていきました。

家の中に入って辺りを見渡すと、ソファやテレビ、本棚が並ぶリビングと思われる部屋に入ったことが分かりました。
そのまま体の方向をグルグルと変えて辺りを見渡していると、柱時計が目に留まりました。

ヤーは柱時計の振り子が傾いたまま動かなくなっていることを不思議に思いました。
「柱時計って、ここがゆらゆらするはずだった」
ヤーはそういうと、気になって気になって仕方ない柱時計に近づいていきました。

そして、柱時計の扉を開けると、黒い小さな何かが真っ赤で大きなまんまるの目がこちらを見て、ホッとした声で言いました。
「……ヤー…」
黒い小さな何かの正体が分かると、ヤーはニッコリ笑って言いました。
「やぁ!」

☆  ☆  ☆

無事ギーを見つけることができたヤー。
二匹は家にある財産を持てるだけ持って町を出ました。

「もう少し歩いた先に船があるわ。それで持ってきたこのお金やアクセサリーでできるだけ遠くに行きましょう」
賢いギーの提案で、隣の隣の町の港に行くことになりました。

川には小さな船しか無かったものの、運良く襲ってくるような危険なヤギはいませんでした。
小さな船を岸につけてウトウトしているタヌキのおじさんにヤーは大声で目覚めさせると、ギーが持ってきたお金やアクセサリーを見せて言いました。
「これで行けるところまで行きたいの」

タヌキのおじさんは目をこすりながら眠そうに言いました。
「ヤギの町の奴らか…他にも来た奴らが居たよ。青い目のヤギたちはバカだから海を渡れば追ってこないよ。」
そして、隣の島までの便があるという港まで連れて行ってくれました。

☆  ☆  ☆

港へ向かうまでの道中、タヌキのおじさんとギーは話していました。
「何でこんなことになってしまったんだろうな」
「伝染病っていうのは嘘であれはただの食中毒だっておばあちゃんが言ってました」
「食中毒?」
「ええ、祭りがあって。そこで振る舞われた料理が原因なんですけど、私達赤い目のヤギは賢いから中毒にならなかったの」
「なんともバカみたいな話だな」
タヌキのおじさんは大声で笑っていました。
ヤーは二匹の会話を理解できていなくて、ボーっと周りの景色を見ているだけでした。

☆  ☆  ☆

港へ着くとヤギが100匹くらい乗れそうな大きな船がありました。
二匹はそこに乗り込み、隣の島へ向いました。。

二匹はタヌキのおじさんの船に乗るまでにたくさん歩いていて、クタクタに疲れていましたから、乗車席に座ると、ヤーはすぐに眠ってしまいました。
ギーもしばらくして眠りました。
島につく頃には朝になっていて、夜明けとともに目を覚ました。

☆  ☆  ☆

船から降りると、島の一番高い山の頂上が七色に光っているのが見えました。
「あれはなんだろうね、ギー」
「さぁ、行ってみようかしら」
二匹は、七色に光る山が気になって、その場所へ行ってみることにしました。
ヤーもギーもヤギですから、山登りは得意中の得意です。この島一番の高い山でも簡単に上ってしまいます。

☆  ☆  ☆

山の頂上へ着き、七色の光の正体を知ったギーは思わずため息をつきました。
「わぁ…沢山お花が咲いていたのね」
ヤーはお花が大好物でした。町を出てから何も食べていなかったせいもあり、そこらじゅうのお花を手当たり次第に掴み取っては、むしゃむしゃと食べ始めました。

☆  ☆  ☆

ヤーの食欲が落ち着くと、ギーが言いました。
「ここにお家を建てて住むのはどう?」
「とてもいい考えだ」
ギーの提案にヤーは大賛成しました。

☆  ☆  ☆

それから、ギーの指示通りにヤーは家を作り始めましたが、途中でヤーの中にある願望が出てきました。
「こんな普通の家で、またあいつらがやってきても大丈夫なんだろうか?もっと頑丈で外から入りにくい家にした方がいいんじゃないか?」
ヤーの願望にギーは断る理由もありませんでしたので、頑丈で外から入りにくい家の作り方を教えました。

小さい家でしたが、二匹が暮らすには十分な広さでした。
家の中も、立派な家具をこしらえて、素敵なお部屋になっていました。
ですが、だだ一つ、不思議なところがありました。
玄関の前に壁があるのです。
ジャンプが得意なヤーでも、飛び越えるのに一苦労するような壁でした。

☆  ☆  ☆

家ができあがってから、またヤーの願望が出てきました。
「君がここから出ないようにすれば、赤い目のヤギがいるとは思われないよ」
「そうね」
ギーはヤーの考えが全て理解できたわけではありませんでしたが、自分を守ってくれようとしてくれるヤーの言葉に感動して、ヤーの考えをずっと聞いて理解しようとしました。

ヤーの考えはこうでした。
家の周りを隙間なく覆うように、高い壁を作ろうとのことでした。

☆  ☆  ☆

高い壁で覆われた小さな家が完成する頃には、家の周りに咲いていた花達は枯れていて、山は茶色く秋の模様になっていました。

ヤーは「これでは食べるものがない」と困り果てました。
ギーはそれをおかしく思いました。秋には木の実が実ったり、木の根っこも食べられたりしますから、それを冬に蓄えておけばいいのだと提案しましたが、ヤーは偏食で花と緑の草や葉っぱしか食べれませんでしたから、木の実や木の根っこなんて食べられるわけがないと言いました。

「町では一年中、おいしい花が食べられたんだ!」
ヤーは悔しそうな顔でそう言うと、どこかへ行ってしまいました。
ヤーは一つのことしか考えて行動できません。
きっと、町に戻ったか、一年中花が食べられる場所を探しに行ったのだと賢いギーは思いました。

☆  ☆  ☆

それからいくつもの季節がすぎましたが、ヤーが戻ってくることはありませんでした。

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「まったく、この話は何度聞いても飽きないね」
『…そうね』
「この前来てたのはそのヤーって奴かい?」
『このお話は私のお話じゃないの』
「本当かい?君の名前はギーじゃないのかい?」
『何度も自己紹介をさせる気?私はセラ・クリスタよ』
「そうかい、黒ヤギのセラさん。僕は青い鳥のコリートだよ」
『小さな子はもうねる時間よ』
「こう見えても大人なんだよ」
『…そうね』

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