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「黒衣の女」


「黒衣の女」


地獄の業火は全てを焼き尽くすと不気味な笑みを浮かべた。

荒涼とした焦土に黒い人影が立っている。

黒ずくめの衣を着た女である。

女は焦点の無い虚ろな眼差しを虚空に向け、微動だにしない。

やがて、闇の帳が全てを包んだ。

漆黒の闇に幽かな調べが流れた。形容し難いもの悲しい音色である。一時の、瞬きほどの時間に…… 


錯覚かもしれない。無音と闇の中ではよくあることだ。

時間すら定かでないこの空間では何もかもが曖昧模糊たる夢幻の出来事である……
 
 
闇にも慣れたのか感覚が鋭敏になっている。

微かな音、熱、或いは得体の知れぬ気配が感じられる。

だが、此処は無重力の世界でもある。それでも密かな気配を感じる。

この感覚もやがて消え去るかもしれない。無感覚自体はさほど不快ではない。

夢の眠りに似た眠り。こうして闇と同化していくのだろう……

 闇を引き裂く悲鳴が轟いている。おそらくあの黒衣の女であろう。

 空間がぴりぴりと振動している。

 ……闇が全てを支配した。

 ……黒衣の女も闇と同化したのだろう。


  静寂と闇しかない。


           
二〇〇〇年一月七日

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