嘘日記 3日目
今日は夕方、塾に行ってきた。
塾の行き帰りは歩きに限る。
何故かと言うと、大通から1本外れた路地裏に外までいい香りがする焼き鳥屋さんがあるからだ。
友達は服に匂いが着くから、と煙が出ている店の前を急いで突っ切るのだが、私はわざわざマスクを下ろし、煙を思いっきり吸い込む。
タレと鳥の油の香り。美味しい。幸せな煙に肺が喜ぶ。
喫煙者の方も同じ気持ちなのだろうか。まだ私は未成年だからタバコは吸えないけど、焼き鳥の煙が出てくるタバコなら吸ってみたいかもしれない。
塾が終わり、帰り道も同じように焼き鳥屋の前を通って帰ろうとすると、人影が見えた。
白ご飯を片手に焼き鳥屋の室外機に腰掛けている。しかも女性。
髪は短く、綺麗な金髪だった。ブランド物の衣服とバックを身につけ、上品な顔立ちだ。
私は近くで立ち止まり、いかにも誰かを待ってますよ、という感じでその女性を観察していた。
焼き鳥屋のバイトだと思われる、体育会系の若い男性が店から出てきた。名札には「女性の心を串刺し! 佐藤」と書かれていた。なんだ偉そうに。
バイトは「ちょぉ、お姉さんまたですかぁ。」と呆れたような顔をした。
女性は満更でもない様子で、「まだ帰んないからね、バイト君。」と妖しく微笑んだ。
バイトはため息をついて「お姉さん、その服高いのに匂い付いちゃいますよ。てか、何で服とかカバンとか高いモン持っててこんなことしてんすか。」と言った。
女性はもう冷めてしまったであろう白ご飯を愛おしそうに見つめ、少し黙った。
焼き鳥屋の中の人々の喋り声。室外機が回る音。
女性はバイトに向き直り、いたずらっぽい笑みを浮かべ言った。
「君の事気になっちゃてさ。」
観察していた甲斐があった。もうドラマじゃないかこんなの。
バイトはぇ、あ、それは、と言葉に詰まっていた。
女性は室外機から離れ、バイトのおでこを人差し指でツン、として、
「また会いにくるね。」と去っていった。
その場に立ち尽くしているバイトは「串刺された…」と夜空を見上げた。
その時、私とバイトの目があった。
バイトは恥ずかしそうに、名札を取ってポケットに入れた。
素晴らしいドラマ見た。
…
その後やっぱり焼き鳥が食べたくなって、コンビニで買って帰った。
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みじゅあです。
たまにはこう言う話も。
路地裏の煙の香りが好きな方は、是非反応ください。
変わらない日々が、好き。
それでは、また。