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砂漠四重奏【短編小説】

古びた机の抽斗を開ける。
中には1枚の白黒写真。
摘まみ上げて見る。
砂漠が映っている。
広がる空。広がる砂丘。砂丘には、無数の黒い影。
底のない穴のようにも見える影。
机の上に写真を置いた。
窓の外を見る。
ここは二階で、庭が見えた。
緑色の芝生があり、その上を、少年と犬が、走っている。
少年は短い金色の髪をしている。半袖に短パン姿。
犬は、太り気味のブルドッグだ。
笑い声が聞こえる。
昼食の時間が迫っていた。写真を、再び抽斗に仕舞う。
木材の床は踏み歩くと軋んだ音をたてた。
その場を立ち去った。

***

タクラマカン砂漠の真ん中に俺たちはいた。
食料も、水もない。

激しい日差し、雲一つない、真っ青な空……どこまでも続く、黄色い砂の広がり。

俺はまだ歩けそうだが、相棒のヨシオは、座り込んで動こうとしない。

「もうだめだ……」
ヨシオは、うなだれてつぶやく。

俺は、黙ってヨシオを見ていた。

ヨシオは、俺よりも背が高く、スポーツ刈りで色白だった。
筋肉もかなりある。特に首から肩にかけての筋肉の盛り上がりが凄かった。
昔格闘技をしていたというが。

ヨシオは、いつも元気で、誰からも好かれていた。

お調子者のヨシオは、みんなを笑わせようと、牛丼チェーン店にある共用の紅ショウガを突然、箸をつっこんで一気に食い始め、警察に通報されて逮捕されたこともある。

逮捕され、釈放されても、全然気を落とすことなく、元気だったヨシオ。

「あんな程度のことで逮捕してさ、人間らしさを失って激怒して、顔を真っ赤にして叫びまくる連中、マジで気持ち悪いよな。俺は終始、人間らしい理性を保って対応したけどね。マジ、俺は全然悪くないし。反省もしてない。またやるよ。こうなったらとことんあいつらに嫌な思いをさせてやるんだ」

そんなヨシオが弱音を吐く姿を見るのは初めてだった。
ヨシオは、本当に限界まで頑張ったんだと思う。

俺はヨシオの肩に手をかけた。
「ヨシオ……、よくここまで来れたよ」
ヨシオは力なく微笑む。
「俺、こんなところに来るなんて思わなかったよ……。ただ、お前と一緒にいられるだけで良かったんだ」
ヨシオの目から涙が流れる。

ヨシオの言葉を聞いて、俺の心の中に何か熱いものがこみ上げてきた。

俺には何ができるだろう? ヨシオのためにしてやれることはないだろうか? ヨシオの手を握って言った。

「よし! ここで二人で暮らそう!」

ヨシオは驚いたように顔を上げる。
そして、嬉しそうな笑顔を見せた。

俺はヨシオを抱きしめた。俺たちは衣服を脱いだ。
全裸になったんだ。

ヨシオの分厚い胸板。そこにはびっしりと胸毛が生えている。
腹筋も8つに割れている。
臍から股間に向けて毛深い……陰毛の中に、チンポが、玉袋がある。

あらわとなるヨシオの可憐な肢体。俺の股間が反応していた。

「ヨシオ……可愛いよ。マイスイート」

俺はヨシオのすでに反応して硬くなり始めているチンポに触れた。
「あっ、あん!」
ヨシオが甘い喘ぎ声を出す。
恥ずかしそうに顔を赤らめるヨシオ。
耳まで真っ赤になっている。

「ヨシオ……可愛いよ。マイスイート」

そして……俺たちは幸せなキスをした。舌と舌を絡ませて……とても甘くて……濃厚な……男同士のキスだ……。

クチュ、クチュ……いやらしい音が響く。俺たちは興奮していたんだ。

ヨシオが言う。目を潤ませている。
「ああ……二人なら何とか生きていけるかもしれない。でも、どうやって暮らす?」

***

冷たく乾燥した路上に枯れ葉が舞っている。
トレンチコートを着た、短めにカットしてある金髪の老人が、ベンチに座っている。
一枚の写真を見ている。
それは、砂漠の写真だった。広がる空、広がる砂丘。
砂丘には無数の黒い影。それは底のない穴のようにも見える。
老人の、皺だらけの顔や目には表情が見受けられない。
虚無の顔をしている。
ベンチの向こう側には、若いカップルが、いた。
男の方が、女の胸を揉んでいた。
女は嫌がる様子なく、揉ませていた。
微笑み合うカップル。
老人は、砂漠の写真から顔を上げて、カップルを見始めた。
男の方は、二十代前半ぐらいだろうか?
髪は長く、目つきが鋭い。頬がへこんでいる。
女の方は、三十代半ばぐらいか。
髪が長く、大きな目をしている。頬がふくらんでいる。
二人の唇と舌の動きが激しくなるにつれ、老人のトレンチコートのポケットの中で、 何かがカタカタ震えている。
老人の手だ。
震えているのは、老人自身の手であった。
干からびた枯れ枝のように細い手。
そして、その手には拳銃があった。
黒光りする銃口は、カップルに向けられている。
カップルはまだ気づいていないようだ。
やがて、男が果てたのか、
「イグイグッ」
という声と共に、動きが止まった。
男は、女から離れ、立ち上がった。
女の方も立ち上がろうとした。
その時、乾いた音がした。
同時に、女の身体が揺れて倒れた。
彼女の胸から赤い血が流れ出した。
彼女の目が、大きく見開かれたまま動かなくなった。
老人は立ち上がり、銃口を天に向けながら言った。
「……私は、自分の娘を撃ち殺した」
銃口から白い煙が立ち昇っていた。
老人はゆっくりと歩き出す。
「……私の心の中には悪魔がいるんだ。私は、悪魔野郎なんだ……」
そう言い残して、公園から出て行った。
残されたカップルの死体。
2人とも顔を上に向けている。白目を剥いて大きく口を開けている。
風で砂埃が舞う。枯れ葉も舞っている。枯れ葉が地面を擦る音がする。
カップルの死肉を求めて、カラスが集まり始めている。嬉しそうにダンスをするカラスもいた……。
やがて夜になる。
街の明かりは消えていた。
街灯だけが、暗い道を照らしている。
その街灯の下に、一人の少女がいた。
彼女は、紺色のセーラー服を着ており、長い髪を後ろで一つに束ねている。
目が異様に呼び出している。同じく、前歯も異様に飛び出している。
皮膚は、乾燥しすぎてひび割れていて、血がでている場所もある。
彼女は、手に持っていた缶コーヒーを飲み干すと、空き缶を近くのゴミ箱に入れた。
カランという音を立てて、空き缶はゴミ箱の中に入った。
その時、彼女の背後から、
「よう!」
という声が聞こえてきた。
振り返ると、そこには一人の少女の姿があった。
年齢は彼女と同じぐらいだろう。
身長も同じくらいだ。
髪型も似ている。
また、同じように異様に目が飛び出している。前歯も異様に飛び出している。
皮膚も同じように乾燥しすぎてひび割れている。血が流れている。
ただ、二人の違いは、着ている服の色である。
彼女の方は、上下共に白のセーラー服であり、スカートは膝下までの長さがある。靴下は黒のハイソックスだ。
一方、もう一人の方の服装は、上は白のブラウスを着ており、襟元には青のリボンを付けている。下はベージュのプリーツスカートを履いている。靴下の色はピンクのハイソックスだ。
二人は、互いの顔を見ながら話し始めた。
「……ねえ、聞いた?」
「うん! あの話でしょ?……私達と同じ歳の女の子の話」
「やっぱり、あれって本当なの?」
「さぁね……。でも、本当にそんな事あるかなぁ……」
「……もし、それが事実なら怖いよね」
「うん……」
そこで、会話が途切れた。
沈黙が流れる。
しばらくして、再び彼女が口を開いた。
「ねぇ……」
「何?」
「今度、一緒に映画観に行かない? 面白そうなヤツ見つけたんだけど、砂漠で遭難した若いイケメン2人が極限状態のなかで恋愛関係になるやつでさ……」
「えっ!? マジで!?……行く!超見たい!」
「じゃあ、次の日曜日ね」
「分かった!!」
こうして、約束を交わした後、 二人は別れて帰って行った。
一人になった彼女。
しかし、すぐに別の人物が現れた。
それは、背広を着た中年の男性だった。
黒縁眼鏡を掛け、口が歪んでいる。
作曲家のショスタコーヴィッチに似ていないことない。そんな容姿をしている。
全体はスマートだが、下腹部だけが異様に飛び出ている。
彼は彼女に近づき、こう言った。
「やあ、君……」
「はい……」
「君の事をずっと見ていたよ……」
「…………」
「君、可愛いね……」
「ありがとうございます……」
「ところで、今夜、暇かい?」
「いえ……」
「そうか、それは残念だ……」
「すみません……」
「まあ、いいや……」
男は肩を落とし、酷く落ち込んだ様子で、その場を去った。
その後ろ姿、猫背で、足を引きずるようにして歩く姿を眺めながら、 彼女は呟いた。
「ああいう人、嫌いだわ……」

***

現代音楽の作曲家として著名なスターンカウゼン氏の新作「砂漠四重奏」が初演された。この作品はヴァイオリン、フルート、クラリネット、チェロの四重奏をタクラマカン砂漠の真ん中で演奏し、その様子を東京都内の劇場でライブ中継として流すというものだ。砂漠の発するノイズを、スターンカウゼン氏が開発したエフェクトシステムにより独特なハーモニーやリズムに変換する。初演は成功を収め、現代音楽の愛好家や批評家からは概ね好評であったが、なかには、砂漠のノイズのなかに男たちの喘ぎ声のようなものが混ざっていて不愉快だった、という意見もあった。もちろん、そのようなエロスなトラブルも現代芸術には好ましいという意見もあったが。スターンカウゼン氏は今回使用したエフェクトシステムをさらに先鋭化し、「深海四重奏」「深夜サウナ・ハッテン場交響曲」を制作、三部作とする予定であるという。

***

「自分が悪魔野郎だと気づいたのは小学校の頃だった」
「悪魔野郎?何か悪いことをしていたの?」
「いや、芝生の上を、犬と一緒に走って無邪気に笑っていた……」
「何それ?楽しそうじゃない。どうしてそんなこと言うのよ!」
「それから中学に上がっても俺は自分の気持ちが抑えられなかった。その頃からだんだんと俺の心の中には黒い影が見え隠れするようになっていったんだ……でも俺はそれに気づかないふりをして生きてきた。そして高校生になってこの学校に来てからも、やっぱり心の中に潜む黒い影を無視することができなかった。だからあの日も俺はいつものように心の中に住むもう一人の自分に従って行動したんだ」
「それが悪魔の囁きだったというわけね」
「ああ、そうだ。その通りだ!俺はあいつの声を聞いた瞬間、今まで抑えつけていた感情が爆発したように暴走してしまった。その結果がこれさ」
俺は左手で顔を覆うようにして言った。
「そう、それは大変だったわね」
彼女俺の隣に座って肩を寄せるとそっと抱きしめてくれた。
彼女の温もりに包まれて俺の心は次第に落ち着いていくようだった。
「ねえ、聞いてもいいかな?」
「うん、いいよ」
「どうして君は俺を助けてくれるの?」
「うーん、どうしてだろう……私にもわからないかも……」
「じゃあ、もし君を助けることができるとしたらどうしたらいいと思う?」
「私があなたを助けることができたら嬉しいな……」
「簡単にそんなことを言うな!この野郎!」
俺は机を蹴り倒し、彼女の顔面に思い切りパンチを入れた。
「ブヒイイイイイイイ!!!」
耳障りな甲高い豚みたいな悲鳴をあげて彼女は床を転がった。
ひっくり返り、スカートがめくれ、パンツが丸見えになっている。
パンツにはシミができている。小便を漏らしたのだろう。
「お前みたいな奴は今ここで殺した方がいいんだ」
「ブヒ……ブヒイイイイ!!」
恐怖に引き攣った顔で、彼女はこちらを見て叫んでいた。
もう、人間の言葉を話せる状態ではないのだ。
「見ろよ。俺は悪魔野郎だ」
俺はズボンを下ろし、パンツを下ろした。
俺の赤黒いチンポが硬くなり、びくびくと震えている。先っぽからは透明な粘液が出ている。上着のポケットから麻縄を取り出した。興奮がおさまらない。
ゆっくりとした足取りで彼女の方へ近づいていく。

***

スターンカウゼン氏が最初に注目された作品は、彼が14歳の時の作品。「パパ&ママ 愛の歌」である。これはオーケストラと録音したスターンカウゼン氏の両親が性行為している際の声により構成された楽曲である。オーケストラが基本的に教会音楽の響きを維持しながら静かなアダージョを奏する中、スターンカウゼン氏の両親が、絶叫に近い快楽の声を響かせるのだ。実の両親の喘ぎ声を録音し音楽の素材として十分に活かすことに成功したこの作品を、まだ14歳の少年が作り上げた。この事実に世界の現代音楽愛好家、批評家が驚愕の叫び声をあげたのである。「僕は毎日、パパとママのベッドルームに盗聴器を仕掛けていましたよ。それで2人が交尾してる時に出す鳴き声を録音し続けてました。僕はパパとママがケダモノみたいになるのを可愛いと思っていましたよ。特にパパがイキスギイ!イグイグ!とリズミカルに叫ぶ部分、ママがめちゃくちゃ高い声でイイー!イイー!と叫ぶ部分は多用しています」インタビューでスターンカウゼン氏は語った。その後も現代音楽シーンにおいて注目作を発表し続けるスターンカウゼン氏も今年で89歳。夏までに自身最後の大作と銘打ち「人類讃美のためのカンタータ」を東京都で初演する予定。これはオーケストラと全裸の500人の男性コーラスによる巨大な作品になるという。「実際に男性コーラスたちが演奏中にオナニーを始めるんです。快楽に塗れた喘ぎ声を、500人の男性コーラスが出す。誰も聞いたことのない響きになるんじゃないかな」インタビューで語るスターンカウゼン氏。そう、彼は常に誰も聞いたことのない響き、音楽を求めて創作を続けている、数少ない作曲家である。すでに89歳と高齢であるが、これからも我々に聞いたことのない音楽を聴かせ、大いに驚かせてくれるに違いない。

***

俺たちは砂漠の真ん中で、全裸になり、抱き合っていた。
愛し合っていたんだ。

ヨシオは不思議そうに俺を見た。
俺は空を見上げる。

雲一つない青空が広がっていた。

ヨシオも俺と同じものを見つけたようだ。
「なんだあれ? 鳥か?」

確かに大きな鳥のようなものが空を飛んでいるように見えた。

「違う! 飛行機だよ! きっと助けが来たんだよ!」
ヨシオの顔が明るくなる。

だが、すぐに表情が曇った。

「でも、ここからじゃあ見えないなぁ……」
その時、突風が吹いて砂ぼこりを巻き上げた。

目を細めて前を見ると、さっきより近くにそのシルエットが見える。
俺は思わず叫んだ。

「ヨシオ、見えたぞ! ほら、やっぱり飛行機だ! それに、人が乗っているみたいに見える」

ヨシオは、大きく目を開いて何度もまばたきをした。

「本当だ!ほんとうに乗っているよ! やったー!!」
「よかった! 助かったんだ!」
「俺たちにも希望があるんだ!」

ヨシオが大声で叫ぶ。
「おい!! 誰か手を振ってくれているぞ!」

***

真っ黒い機体。最新鋭戦闘機TTT075はタクラマカン砂漠を飛行していた。そうして、前方に、チンポをビンビンに勃起させキスし続けている全裸のおぞましい男性2人を発見すると、ただちに攻撃態勢に入り、急降下、全裸の男性2人に対し、機銃掃射を行った。逃げ惑う暇も、悲鳴をあげる時間もない。全裸の男性2人は即時、体中を銃弾で貫かれ、バラバラになり、ぐちゃぐちゃのミンチ状のものが、砂漠にはポツンと残る。それもやがて風で移動し続ける砂が完全に覆い、見えなくなるだろう。戦闘機のパイロットは小さく頷いてからまた高度を上げて行った。真っ黒な戦闘機は一瞬で、飛び去った。

***

七三分けの髪型、黒縁眼鏡を掛けて、口が歪んでいる中年男性、どこか作曲家のショスタコーヴィッチを思わせる中年男性が、肩を落として、夜の路上を、歩いていた。

「ウギイ!ウギギイ!」
甲高い叫び声がした。

しばらく行くと、路上の、電信柱の横に、アップライトピアノが置かれ、そこでは、オランウータンに酷似した全裸の毛深い男が、めちゃくちゃな演奏をしていた。

「ウギイ!ウギギイ!」
甲高い叫び声は、このオランウータンに酷似した男が、発していたのだ。

「だから、何だと言うのか」
特に、このオランウータンに酷似した全裸の毛深い男性に興味を持つことはなかった。

黒縁眼鏡を掛けた中年男性は、そのまま通り過ぎた。

コンビニに入り、カップ酒とスルメを購入した。

***

T京都S区。
ミクラテスTTT075錠。
Z世代の若者たちは夜のクラブで、テーブルに山盛りされているその錠剤を、水もなくそのまま口に入れて噛み砕く。
途端に、楽しい気分になってくる。
ついでにチンポもビンビンになる。
明かな異性愛者だった男が、その瞬間に、隣にいるZ世代の男の肩を抱いて、顔面にキスを降らせる。
同じ髪形……側頭部を刈り上げにし、頭の上部分の髪は、比較的豊かに盛られていて、ベットリと整髪剤をつけ、ウェーブをかけてある……。
同じ体型……みんな腕と脚が細く長い。一見スマートだが、よく見ると、下腹部は少しだけぽちゃっとしている。別に鍛えているわけではないのだ。
「今夜は楽しもうや」
「ケツダンスしよう」
「いいね。ケツダンス。イエーイ」
「うん。イエス。イエーイ」
お互いの、それほど肉のついていないケツを揉み合うZ世代の若者たち……。
その場ではお洒落感のあるピアノ音楽が流れていた。
モーツァルトのピアノソナタを、ジャズ風にアレンジしたものらしい。
音楽に合わせ、ピンク、青、黄色、照明がカラフルに舞っている。
「ケツにミクラテスTTT075を入れたらすぐキマるから。後でやろうや」
「いいね。ケツダンスだ。いいね」
「イエーイ」
Z世代の若者たちは笑顔でピースをし合う。
心からこの瞬間を楽しむ。
それが大事。
口にミクラテスTTT075錠を大量に含み、その状態で隣の若者とキスをする。
大量のミクラテスTTT075錠が、キスされた若者の口内に移動する。
そして、錠剤を噛み砕く。
目が、トロンとしてくる。
チンポが、より一層ビンビンになる。
(ミクラテスTTT075は心をリラックスさせ、体を興奮状態にさせる。)
「イエ、イエーイ……」
そう呟いてその場に倒れる者もいた。
薬物の過剰摂取で、そのまま死亡する者も、もちろんいた。
だが、それも自然の摂理なのだと、Z世代の若者たちは受け入れた。
今を、ありのままに楽しむ。
それが大事。

***

古びた机の抽斗を開ける。
そこには1枚の白黒写真がある。
摘まみ上げて見る。
砂漠の写真だ。広がる空。広がる砂丘。砂丘に張り付く無数の黒い影。
それは、底のない穴のようにも見える。
机の上に写真を置いた。
扉が、突然に荒々しく開けられた。
「わ!俺たちゾンビファイターズ!」
顔を青く塗り、ぼろぼろの衣服を着た複数人の子供たちが、部屋の前に立っていた。
腕には包帯を巻いていた。
「わ!俺たちゾンビファイターズ!」
何の反応も示さず、ぼーっとした様子で、叫ぶ子供たちを見た。
すると、子供たちは始めのテンションを失い、
目を伏せて、急に大人しくなると、扉を静かに閉めて立ち去ったのだった。

***

砂漠の夜は寒い。物凄く、寒い。
俺とヨシオは全裸だから余計に寒い。

俺たちは震えていた。

「ヨシオ、おいで」
「うん……」

俺たちは全裸で抱き合い、眠った。
もちろんキスをすることもあった。

時にはそれ以上の行為も。

「ヨシオ……愛してる」
「うん。僕も……愛してるよ」
「チンポ、舐めていい?」
「うん。舐めて?気持ちくして?」
「ヨシオのミルク、飲みたいな……」
「うん。飲んで。いっぱいミルクでるよ……」

砂が舞う音を聞きながら、砂漠の暗闇のなかで、
俺たちは抱き合い、ロマンチックなキスを交わしたんだ。

ピチャ。ピチャ。お互いの唾液が交じり合う音が響く。

ここには確かに、永遠の愛が存在した。

俺たちは凍えながら、死ぬんじゃないかと思いながら、必死で、愛し合っていた。
それは、確かなことだった。

「ねえ、星が綺麗だよ……」
震えながら言うヨシオの快楽に潤む瞳には、美しい星の輝きが、浮かんでいた。

「ヨシオ…可愛いよ。マイスイート……」

〈了〉

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