モグラ研二

疲れてる30過ぎのおじさん。都内在住・会社員・一人暮らし。

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最近の記事

殺戮の連鎖【短編小説】

毎日、道路を歩く。前方から、カップルや、家族連れが向かって来る。 彼らは、自分たちの世界しか、見ていず、私の存在など、全く認知していない。 あるいは、認知しているが、どうでもいい、邪魔はするなよ、と思っているか。 とにかく、奴らには、避ける気配など、微塵もない。 それは、確かなことだ。 私は道路の真ん中あたりまで、避けなければならない。 こちらを一切見ることなく、カップル、家族連れは、安全な路端を歩いて行く。 私は、なぜ、自分が、こんな道路の真ん中を歩かねばなら

    • 私信【短編小説】

      私は54歳の男性であり、私の仕事は公園で人々に罵倒されたり殴られたり唾を吐きかけられたりバケツに入っているドブ水を浴びせられたりすることで、そのことはインターネットに記載されているし、お望みならばそこに記載されたダイヤルに電話してもらえれば、あなたは私に対して上述したような行為を有料で行うことができる。 あなたが有料で様々なことができるのは事実であり、そのことはインターネットに記載されているのだから、あなたは否認することなく事実を認めるべきなのだろう。 私は54歳の男性で

      • 精子マンVSサイボーグマン【短編小説】

        下半身をサイボーグに改造された市川タロヤスが起きて最初にしたことは自分の股間を確認することだった。 「ないよ!チンポコない!やだ!やだ!」 市川タロヤスはベッドの上で絶叫した。 確かに、下半身は合金製のサイボーグにされていて、股間はツルツル、メタリックで、何も付いていない。 「やだよ!セックスできない!射精!イグイグって絶叫しながら気持ちよくなれない!やだよ!」 涙が溢れてきた。圧倒的な絶望感だった。 人生が終わった。 「失礼」 低い静かな声。 ドクターマーチンが、部屋

        • 今の気分……

          砂漠四重奏【短編小説】

          古びた机の抽斗を開ける。 中には1枚の白黒写真。 摘まみ上げて見る。 砂漠が映っている。 広がる空。広がる砂丘。砂丘には、無数の黒い影。 底のない穴のようにも見える影。 机の上に写真を置いた。 窓の外を見る。 ここは二階で、庭が見えた。 緑色の芝生があり、その上を、少年と犬が、走っている。 少年は短い金色の髪をしている。半袖に短パン姿。 犬は、太り気味のブルドッグだ。 笑い声が聞こえる。 昼食の時間が迫っていた。写真を、再び抽斗に仕舞う。 木材の床は踏み歩くと軋んだ音をたてた

          砂漠四重奏【短編小説】

          セグウェイに轢かれた後に聞こえ始めた音楽について【短編小説】

          ビルに囲まれた吹き抜けのようになっている広場。 そこに設置されたステンレス製のベンチに私と藤崎タピオカンデは、並んで座っていた。 藤崎タピオカンデは有名な令和フルーツダンサーズに、今度参加する予定。 熱っぽくその話をしていた。 ……スポットライトの当たる舞台に、乳首や股間に葡萄やバナナや林檎だけをぶら下げた、裸の状態の太り気味な40歳以上の男性たちが登場。 みんなだいたい毛深い。むわっとした、雄のにおいをさせている。 フルーティーになっちゃったよお!と、雄臭く毛深い

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          世の光【短編小説】

          キヨシちゃん。46歳独身。無職。髪はボサボサで、無精髭を生やしていて目は虚ろ。夏前であるがフケや垢で汚れた臭いダウンジャケットを着ていた。 ふらふらとした足取りで、平日午前中から、日課の散歩をしていた。 キヨシちゃんは、途中のベーカリーでバタートーストを買い、公園のベンチに座って食う。 キヨシちゃんの足元に落ちたパンクズを、鳩たちが無言で啄む。鳩たちはカクカクと機械仕掛けのような動きをしていた。 キヨシちゃんが座っているベンチから数メートル離れたところで、老人が紙芝居

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