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2023/12/11,12 突風、トニー現る

バルバデーロからリゴンデの平坦な34.3km
リゴンデからパラスデレイののどかな8.6km

まずはパラスデレイから話し始めたい、そこでトニーに捕まった。それは確か12日のお昼すぎ、いやあちらのランチタイムは14時とかなのでお昼どき、くらいか。その日の朝は雨が降っていたのでゆっくり寝られたし、途中のバーでタルタデサンティアゴをいただいたので、すっかり回復して上機嫌でパラスデレイ入りしていた。教会を見つけたのでスタンプを押そうと中へ入り、朱肉をおして振りかぶったところで横からトニーに奪われた!ナイスタイミング

朝食からタルタデサンティアゴw美味、まさにこの上なき

彼とはその前に2回ほど会っていたので、ん⁈友だち気味ってことなのかな?と思ったものの、何せ彼は英語が通じない。しかもショーンコネリーみたいにやけに濃い系のハンサム顔なので、親近感は感じづらい。

一度目に会った時は洞窟みたいな場所で実は教会だった。森の中にひっそりとある不思議な場所で、奥行きは3m高さは2mくらいか。中にキリストがいたし書物も少しあったと思う。オーモステイロから10km弱くらいのはずだが、再訪できる気はしない、地元の人のみが知るような隠れスポットだ。トニーはそこに静かにしていた。ボクも入ってみたが、見られて、英語が通じなくて、でも彼のお祈りの邪魔をしていることだけは理解して、早々に脱出した。そのまま先を歩いていたら、彼は後ろからやってきて、ボクの肩をポンと叩いて飛脚のように、いや風のようにピューッと走り去ってすぐに見えなくなった。巡礼者というよりは地元のスポーツマン⁈いやいや、ただの突風だとしか思えなかった。

二度目はポルトマリンの街への入り口、階段に彼がいた。誰か女の人と話していた。相談されている?いや深刻度はもう少し低い気もする。うっすらとでも大きな誠実さみたいなものを感じて大事な何かがそこにあることは理解する。今度こそは邪魔をしないようにとそこを通らずに街へ上がるルートを探ってウロウロ試みるが、甲斐なし。しかも雨上がりに川からの風が冷たく少し殺伐とした気分になる。ここは公道、気にしなくてもいいかと思い直して脇を上っていった。階段の上に教会の分署みたいのがあったのも手伝って、彼は聖職者⁈と思う

ポルトマリンの街への入り口の階段。橋から一直線。上った後。

話をパラスデレイに戻そう。スタンプを押して建物から出ると彼は電話していた。横を抜けてランチ場所を探してフラーっと歩いたら迷ってまた教会のところに出た、そしてそこにいた彼にこういわれた

「赤い日よけのあるプライベートホステル」
「コメール(昼メシ)、500m直進、左手にガソリンスタンド」

念の為に書くがDeepLがそう訳した。愛想のない、要件だけの命令文だが翻訳アプリでやりとりする時の訳し間違いのリスクを考えると、簡潔にまさるものはない。そして彼の言葉には信念というか、確信みたいな強さがあった。はいと応える。それで良いと思った。

ホステル前のマンホール。フェンディってブランドありますよねーこんなマークじゃなかった?

赤い日よけのプライベートホステルもスペイン語しか通じなかったし、彼に紹介されたと言っても彼の名前すら知らない。あっ…、一瞬気を失いかけるが、取り直す。翻訳アプリを駆使してなんとかチェックイン。未知の領域に入ったことを自覚し、荷物を下ろして“左手のガソリンスタンド“とやらを目指す。

500m先のガソリンスタンド、振り返って撮影
その先に会ったドライブイン?的なカフェ。とにかく混んでいた。ポークソテー美味かった

それらしきものを見つけて中に入るとトニーが1人、ポークソテーを食べている。店はトラックの運ちゃんの溜まり場風、小さな街の中心から500m以上歩いたので結構な街外れ、通常アジア人の巡礼者は絶対に来ない。うーむ、何かが始まった。美味そうだったので同じのを頼んだ。彼はマヨルカからきたこと、警察官なこと、マヨルカ一周のトレイルランニングチャンピオンになったこと、三人ほど子どもがいて末の息子がまだ小学校前でとても可愛がっていること大などを写真を見せながら説明してくれた。前回2回に比べると格段に接しやすい。状況によって人は違った顔をする。すっかり打ち解けて宿に戻り、晩御飯の約束をして各々の部屋へ戻る。

夕方、彼が部屋に呼びにきてくれて、一緒に街をめぐった。散歩したり雑貨屋に入ったり、バルで軽くやったりしていわゆるスペイン的ブラブラを満喫する。彼はマヨルカからきたのだが、元々はアンダルシアの出身という。どおりで顔がハンサムなんだね?というと笑いながらボクの肩を叩く、みたいな感じで少したじろいでくれた。こういうやり取りが出来ると少し安心する。通じている実感、みたいなことなのか。言葉が通じないので細かいやりとりはできないから、細かく知ることはできない。“通じている“という実感だけがボクの足場になっていく。

彼はあまり質問しなかったが、住んでいる場所と仕事を聞かれた。東京はすらっと受け入れられたが、「ヨガの先生」と言ったら“かうんじゃないよ!“みたいなリアクションをされた。ポーズをやってみたが、どうも受け入れてない。最早、本当かどうかはどうでもいいからなんとかこの話を落ち着けたい。仕方ないので咄嗟に「ITコンサルタント」と言ってみたら、あーだからか、みたいなリアクションをする。何を知ってるっていうんだ笑⁈ITコンサルタント風ってどんなさ!確かに以前、アメリカのコンサルティング会社で働いたことはあるけれど、それはもう10年以上前に終わったことだ。

その会社で“アイスブレイク“という言葉があった。商談や大きな課題をお客と話す前に、場を和ませるために、お互いの心を和らげるために、柔らかいネタをクライアントと会話する、というような行為だ。いま思えばこの日の午後の時間はまるでそれだな、と思う。ただこの時のボクは、翌日からが真剣な話の時間である、ということはまだあまり自覚していなかった。

晩飯はホステルのレストランで食べた。トニーはもうオーダーが決まっていて、宿泊も含めてパックになったメニューを申し込んであるようだった。ボクはメニューをみて決めるのが億劫だったので「同じもの」と頼んだら、どれも彼の皿より少しずつ多く出てきた。それがパッケージにセットの食事とアラカルトオーダーの差であると、食べ終わる頃に理解する。そんな感じで、要はギリギリ綱渡りのコミュニケーションで彼との旅が始まっていった。ちなみに彼の職業は警察官だそう、どうりでスタンプをナイスタイミングで略奪できるわけだ。辻褄が合う

明朝の集合の指示をもらって早めに就寝する

翌日からの、スペイン人たちとの旅が始まる


リゴンデの宿にいたサンタ。軽くていい感じ。宿の至る所に家主の愛情を感じる良いホステル


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