2023年の夏、パン屋で販売のバイトをして6年が経った。ご近所さんたちが常連の、町の小さなパン屋さん。顔馴染みのお客さんたちとの触れ合いにやりがいを感じる一方で、お店の奥でパンを作る職人さんたちへの憧れが抑えられなくなった。これまでドラッグストアとか百貨店とか、とにかく販売しかしてこなかったわたしは「手に職」を猛烈に尊敬している。 製造なんてまったくの未知の領域。それでもどうしてもやってみたくて、パン製造の求人を探した。これまでの販売を担当するお店と新しく製造のお店、2店
くらってしまった。せっかく娘のいない生活に馴れてきたところだったのにな。子離れしたかっこいい親になってると思ってたのに・・・。娘の暮らす島を離れるフェリーのなかであふれてくる涙をぬぐいながら、わたしはそんな自分に動揺していた・・・。 娘は地元の高校ではなく島留学という道を選んで家を出た。入寮・入学以来、ラインでのやりとりがある。「あれ送って」っていう用件が大半だけど、たまにはちょっとした雑談なんかも。文面から伝わる娘は、それはそれは元気に充実した生活を送っているようで、
「とびしょくの男性が…」テレビのニュースを見ながら朝ごはんを食べていた当時中学生の娘は「とびしょくって何?」と訊いてきた。「なんだと思う?ほら名前から想像してみ」と言っても、「ええー、わからない」と言う。「いや、ちょっとはわかるでしょ」なんて言いながら、わたしは自信満々に説明をしはじめて……、途中で道に迷うことになるのだった。 ほら、とびしょくっていうくらいだから、飛ぶんよ。ん?飛んではないか。飛んだら落ちちゃうもんな。飛ばないんだけど、高いところにいて…、やっぱりちょっと
そもそもこの本に惹かれたのはアートへの関心以上に、見えないという白鳥さんの気持ちや立ち振舞いについて知りたかったからだ。というのも、わたしはにおいがわからない。におえないことをあけっぴろげにして周囲とかかわることに、まだモヤモヤもある。だから、見えない白鳥さんが見える人たちとどうかかわるのか、それを知りたくてこの本に飛びついた。 20代前半に風邪をひいたかなんだかがきっかけで嗅覚障害になった。そういう嗅覚障害はすぐに治療をすれば治るらしいのだけれど、のんびりしていたわたし