えーとカウンター

1924年(大正13年)創立で世界最大の教育NPO『トーストマスターズ』のプログラムには『えーとカウンター』という役割があります。「えーと」「あのー」といった不必要な言葉を言うと、数を数えて報告する役目です。これも独特の方法で、普通のやり方と違うものです。どう違うのでしょうか?

普通のやり方とは「禁止」や「罰」を使ったものです。私はアメリカの大学に留学していたときに、パブリックスピーチの授業を履修しました。講義の後の実習では全員が「えーと」や「あのー」を言わずに長く話す練習を行いました。先生はストップウオッチを持って「えーと」や「あのー」が出るとそこで止めて、時間を報告します。

私は10数秒しか話せませんでした。おそらくクラスで一番短かったでしょう。とても恥ずかしかったのを覚えています。劣等感を感じました。無理に矯正しようとする「禁止」や「罰」は心と身体を萎縮させ、積極的に楽しんで話そうとする意欲を失わせてしまいます。

でも、トーストマスターズのやり方は違います。楽しみながら、進歩を促すために行うのです。タイマー(計時)係の人は、次のようにゲスト(見学者)に説明します。

別に「えーと」や「あのー」と言っても構いませんよ。こうした言葉は間を取るために必要な場合さえあります。ただ、あまりにも多いと、耳障りだったり、話し手が自信がなさそうに見えたりして、せっかくのスピーチを集中して聞くことができなかったり、話しの内容を信用してもらえなかったりしてしまいます。ですから数を減らしたい人のために、参考までに、数えて報告してあげるのです。でも、一番の目的は違うのですよ。一つも聞き漏らさないようにと数える私が、集中して聞く力をつけることなのです(笑)。

新入会員が入ったときに、前からいるメンバーは「私も新入会員だったころは20個ぐらい言ったものですよ。今はほとんど、言わなくなりました。」とよく言います。実は、単に意識するだけでも「えーと」は自然に減るものなのです。大切なのは、失敗を恐れない、怖がらないことです。意識はしながらも気を楽にして場数を踏むことなのです。

クラブによっては、メンバーが「えーと」や「あのー」を言ったら、全員がペンで机を叩きます。楽しそうに笑顔で。「これは単なる遊びだよ。楽しもうよ。」そんなメッセージが伝わってきます。話し手(スピーカー)もその笑顔を見ながら話すので、リラックスして口が滑らかになります。

 「人は楽しんでいるときに最も多くを学ぶことができる。」
トーストマスターズ創始者の教育学者スメドリー博士の言葉です。


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