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随筆

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#note初心者

自動車學校の思ひ出:行動しながら考へる事の難しさ

始めに多くの人は自動車學校を、自動車等の運轉免許を取得する爲に通つた場所として記憶してゐるであらう。けれども私は自動車學校を、運轉免許を取得しに行く場所といふよりも、死角といふ事について考へさせられた場所として記憶してゐる。 1 視野に入つてゐる筈の範圍內にも死角はある 自動車學校に入つて間もない頃に受けた或る學科授業で、こんな事があつた。その講義を擔當してゐた講師の方は、誰もゐないと思つた所に實は人がゐて、それに氣付かなかつた爲に生じる事故の存在に言及した後、次の樣な趣旨

『桃花源記』雑感:向はんとすれば即ち背く

一陶淵明の著した『桃花源記』が、中国文学や中国文学史研究でどう扱はれてゐるのか、私は知らない。以下に記す事は、中国文学については全くの素人である私が『桃花源記』を読む中で抱いた感想である。 『桃花源記』の粗筋は次の様なものである。中国の晋の時代に、武陵といふ場所に或る漁師がゐた。或る日、漁師は谷川に沿つて航行する内に、どれ位進んだのか忘れたところ、一面に桃の花が咲き誇る林に出逢つた。漁師は林の奥へ進み、山の口を見つけてそこを通り、桃源郷へと辿り着いた。桃源郷の人々は外界から