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アクセシビリティの二重性

アクセシビリティ Advent Calendar 2020 の記事です。https://adventar.org/calendars/5011

よし分かった!アクセシビリティって大事だよねって思って取り組むじゃないですか。これ読んでる人って、最初から関心があって読んでる、もうすでに取り組んでいる人たちなわけでしょ?こういう人をAチームって呼びましょうか。

Aチームメンバーって、たいていある種のダブルバインド状態に陥るのですよ。でもそれって、日本固有の現象なんじゃないかなぁって思うのです。そこを掘り下げてみようといというのが、本稿の狙いです。

アクセシビリティについて、よくこんな説明を受けませんか?「アクセシビリティは障害者の(交通、建築、情報)アクセスを確保していく取り組みである」「と同時に、高齢者などのより広い人たちにも役立ちます」って。これって、JIS X8341-1 あたりから意図的に作りこまれてきたアクセシビリティに対する理解なんですよね。ですから、多くのアクセシビリティに関するJISや、時には日本が貢献した国際規格なんかでもそういうスタンスが出てきます。

ことの発端は、障害者のためのアクセシビリティだったのです。それを社会にインプリメントしていく過程で、ターゲットを広げることでより広く普及していこうという取り組みになったわけです。ユニバーサルデザインだって元は障害者の話だったのが、どんどん話を広げていって今や障害者とどこが関係あるの?なユニバーサルデザインが存在するわけです。

ターゲットを広げることで実装を広げていくという方法論が間違っているとは思いません。このような現実社会とアクセシビリティの「インタフェース」の方法は有効であったと思います。たとえば、iPhoneのアクセシビリティ機能を「普通の」人たちが便利に使い始めているのを見ると、このようにユーザの多様性に対応する「カスタマイズ機能」のように扱われていくことは悪いことではありません。

しかし、一方で心配になることがあります。それは、情報の分野でいえば「情報アクセスは基本的人権を保障するものである」という考え方との関係です。障害者基本法では、第二章 障害者の自立及び社会参加の支援等のための基本的施策において、次のように述べています。要約しますので、正しくは原文を読んでください。

障害者基本法(内閣府)
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kihonhou/s45-84.html

(情報の利用におけるバリアフリー化等)
第二十二条
 1. 公共は、障害者の情報アクセスを保障するための施策やれや。
 2. 公共は、災害なんかの非常時にも障害者のことを考えた情報発信しないかんよ。
 3. メーカー・プロバイダなど民間は、障害者のために努力せーよ。

とまあこういうわけです。障害者基本法なんですから、障害者のことを念頭に置いた書きぶりになるのは当然ですけど、ここを押さえるということを頭に入れると、まず第一にアクセシビリティは障害者のためのものであって、そのおまけとして第二により広い人にも役立てましょう、というスタンスになるべきなんですよ。

でもね、実際に機器作ったりプログラム書いてみるとわかるけど、第一の機能と第二の機能って同じじゃないんですよね。例えばですよ。音声合成できるように作りこむときに、視覚障害者向けだったらスクリーンリーダーを前提に進めるわけですけど、高齢者のための機能としてはそれではダメなんですよ。で、市場も大きいしってことで第二のほうに重きを置いちゃうと、第一のほうができない。

これがなぜ日本で問題なのかというとね、日本には差別禁止法のような罰則付きの厳しい法律がないし、障害当事者から厳しい声が上がること、裁判になるようなことがほとんどないんだよね。ゆるゆるなんですよ。開発者がアクセシビリティを「つまみ食い」して機能実装することが社会的に許されてるんだよ。もちろん、今出てる製品の中にはとっても真面目にアクセシビリティに取り組んでいるものがたくさんあるんですけどね。

こういう問題をどうすればいいかというと、3つの視点があると思います。

第1に、障害当事者がしっかりと声を上げる、ツイッターでつぶやいてるとかじゃなくて、「運動としてのアクセシビリティ」に取り組んでいくことが必要です。今、アクセシビリティはエンジニアの道具になっていると思うんだけど、それをユーザのものにしていく必要がある。これが一番大事なこと。2つ目は、社会=政治でこの問題に真正面から取り組むこと。予算が付かなきゃ進まないです。第3は、Aチームのエンジニアとユーザがしっかりと一体になって、ユーザ参加の開発を進めていくことです。これには、上手く回していくための何らかの組織や団体が必要で、それには障害当事者団体がそういう意図を持った組織づくりをすべきでしょう。

なんだか、エンジニア視点から見た障害当事者に対するグチみたいな文章になってしまいました。今日はここまで。わーーっと書いたので誤字脱字ご容赦。

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