デジタルとディジタル

ここのところ、デジタルなのかディジタルなのかというのが話題に上がることが多い。世間は、もうデジタルになっていて、ディジタルが残っているのは、JIS(JIS X0001 情報処理用語―基本用語で定義されている)や電気工学、システム工学などの工学系分野だけになってきた。いや、工学分野もすでにデジタルの洗礼を受け始めているらしい。

そもそも、digital(dídʒitəl) という英語は、どう表記するのが正しいのか。たとえば、diesel (díːzəl)という語はディーゼルと書くのが一般的で、デーゼルとは書かない。disable(diséibl)はディスエーブルである。デスエーブルだと、別の意味に勘違いしそうである。debate(dibéit)はディベート、disney(dízni)はディズニーだ。このように調べてみると、digital はディジタルとカタカナ表記するのが原語の発音をよく反映していて、正しいように感じる。

文化庁の「外来語の表記」(平成3年2月7日,国語審議会)でも、「留意事項その2(細則的な事項)」において、

 4 「ティ」「ディ」は,外来音ティ,ディに対応する仮名である。

と明記されている。つまり、ディジタルを支持している。

にもかかわらず、ディジタル庁ではなくデジタル庁ができ、デジタルが俄然優勢になってきた。これはどうも、digital という英語がまず、ディジタルという外来語としてのカタカナ語になったのちに、デジタルという日本語に転化したのではないか、と考えられる。それを証拠に、digital が本来意味するところよりも、デジタルのほうがより広い意味を持ち始めているのではないか。ディジタルの離散的な、という意味から離れて、デジタル機器、デジタルの技術、その応用としての情報技術などを含め、より広い意味で使われ始めていると感じる。

「デジタル庁」と言われてもしっくりこない感じがしたのは、私が工学的な意味で、アナログの対義語としてのディジタルを理解していたからかもしれない。

調べてみたら、令和3年に「デジタル社会形成基本法」というのができている。この法律で、「デジタル社会」を定義していて、かみ砕いていうと、情報技術、インターネットを使って発展する社会というようなことが書いてあった。どうも、この法律がデジタルとディジタルの分水嶺になったのかもしれない。

言葉は常に変化していくものだから、ディジタルに直すべきなどというつもりはない。だが、言葉は対話の基礎なのだからして、デジタルとディジタルを相手やシチュエーションに合わせて正しく使い分けていくのが良いのかなと思う。

こんなことに拘るのは、私くらいのものかもしれないけれど。依然として悩ましいことであるのは間違いない。


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