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Moanin'

幼い頃通った幼稚園のバスが
駅の高架下を潜ってゆく
線路の擦れる音が近づいて
イヤホンから流れる音楽を思い出す
「雨が上がった午後」控えめな歌声
次はいつ晴れるだろう
電車は遠く離れていった
そっちはどっち こっちはどっち

容易に伝えられる言葉が在れば
小説なんてこの世に存在しない
写真なんてこの世に存在しない
誰かの心が止めどなく
生き苦しいと叫んでいた
生きていたいと叫んでいた
誰かに受け取って欲しいと願う
或る小さな生命の傷み


地下鉄のエアコンから流れる風が
中吊り広告を揺らしている
誰かが誰かに訴えかける言葉
別世界のお話だろうか 何も掴み取れない
なんて歌っていたのだろう
音楽は意味や理屈を刺し殺し
こめかみ痛み 巡り出す血潮
こっちに来いと誰かが呼んでる

容易に伝えられる言葉が在れば
音楽なんてこの世に存在しない
映画なんてこの世に存在しない
誰かの心が止めどなく
生き苦しいと叫んでいた
生きていたいと叫んでいた
誰かに受け取って欲しいと願う
或る小さな生命の祈り

21.01.28.Thu.

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