『大森靖子のパクり』と言われ続けて
「大森靖子さんが好き」と言えなくなったのは、私の好きなバンドのライブを観に行った日だった。
物販で気さくに話してくださるメンバーの方に「フェスで大森靖子さんと一緒でしたね。観に行きたかったです」と伝えた。
「大森靖子さん好き...ですよね。“今日も一緒にがんばろうね”て毎日ツイートしてるもんね」
相互フォローしているので、その方は私のツイートを見ている。
どういう意図でその発言に至ったのか、すぐに分かった。
大森靖子さんの「今日もなんとか」を真似していると思われている。
分かっていた。
誰かに大森靖子さんの真似って思われてるんだろうなってことくらい。
でも、私だけが知っている。
大森靖子さんよりも早くに自分が毎日「今日も」ツイートをしていることを。
私はファンクラブにも入ってたほどに大森靖子さんが好きだったし、CDももちろん毎回買っていたし、夜行バスにのって岩手からライブを観に行っていた。
東京に何回もいけるほどお金もない田舎の学生なのでSNSはありがたくて、ずっと見ていた。
だから「今日もなんとか」がここ数年で始まったのを知っている。
私の「今日も一緒にがんばろうね🐼🌸」毎日ツイートは自分が生きることをがんばれなくて、誰かと一緒だったら今日だけは生かせるかもしれないと思ってふと打ってみた文字だった。
音楽を始めるかなり前。
梅星えあって名前もなかった頃。
岩手のメイドカフェ『めいど〜る』にて、初めてギターを持ちライブをした日に遡ります。
(なぜ「メイドカフェで」っていう経緯にご興味があればこちらを読んでもらえると嬉しいです。)
初めてのライブが決まった日。
靖子さんにDMした。
そして、上京しました。
どこでライブしたらいいか分からず、知り合いにミスiDファイナリストの子がいたので相談してみるとアイドルのブッキングスタッフさんを紹介してくれた。
しばらくアイドルとのブッキングに混ぜてもらってて、他にも出てみたいなーと思って好きなアーティストやバンドはどこに出ているのか色々調べてみたら大森靖子さんが定期的に出演していた箱が分かったので、そこでライブさせてもらって毎週出演させてもらえるようになった。
その頃から梅星えあのお客さん、ファンですっていう人たちが会いに来てくれるようになって、すごく嬉しかったな。
音楽つくるのも楽しかったし、ライブも楽しかったし、MVも作ることにした。
そのMVについたコメントが「大森靖子のパクり」だった。
あとは、私をディスるコメントとなぜか擁護してくれる人のコメントで喧嘩が始まってた。
知らない人と知らない人が知らない女のMVのコメント欄でバトってんの、笑える。
そういえば、別の作品を作る前。
私の好きなアーティストのMV監督を紹介してもらってどんな映像にするかを相談し合ってたとき「曲がすごく大森靖子さんに似てるので〜」「その(私の希望する)感じ反映すると大森靖子さんのパクりでしかないので〜」最終的には「私まで大森靖子さんの真似してると思われたくない」とまで言われた。
終始高圧的でとにかく“大森靖子さんから遠ざける”ことを目的としてて、私のやりたい表現は無視され続けたので、こちらからお断りしてしまった。
私の好きなアーティストさんは繊細で、さみしくて優しい音楽をつくる方だったので、それに携わっている監督に撮ってもらえるのが楽しみだったのにただただ言葉にショックを受けた。
今より全然知名度低かったのに、アンチもいた。
今はいない。か、隠れてる?
そのときも靖子さんにDMした。
他の方々と対バンするようになったとき「初期の大森靖子を感じたよ!」て悪意なくお客さんに言われた。その方は元々、大森靖子さんのファンらしく結構ライブ来てくれたけど破滅ロマンスになってからは会ってないなあ。
シンガーソングライターの子に「大森靖子好き!て感じだよね」と言われた。
えあちゃんの音楽好き!と言いながら他にもチクチク言葉あったので、これはちゃんと嫌味だった。
全く気づかず「うん!好きだよ!〇〇ちゃんも?」って言ったら微妙な顔をされたので「好きじゃないの?」って聞いたら「好きだけど。言わないようにしてる」
え、なんでって一瞬なったけど、分かる。
みんな(主語でかくてすみません)、“大森靖子っぽい”という言葉を言わせないようにしている感じがした。
歌い方が、衣装が、歌詞が、ライブが。
少しでも“大森靖子”を感じさせると「大森靖子っぽいね」「大森靖子好きそう」て言われる。
それくらい弾き語りをやってる女の子に影響を及ぼしたんだと思うと本当にすごい。
私はあまり気にしてないほうというか。
遠回しに“個性がない”という意味に捉えることができるのでアーティストが言われたら嫌な言葉だけれども、別に悪口じゃないし。
大森靖子さんも最初の方は「椎名林檎に似てる」って言われてて、それを逆手に椎名林檎さんのオマージュをしてジャケットデザインをしたっていうのを何かで見て知っていたのと、他にも「椎名林檎に影響受けてそう」「ボカロっぽい歌詞」とかも言われてたので、椎名林檎さんの音楽を知ってる人は椎名林檎っていうし、ボカロを聴いてる人はボカロっぽい歌詞って感想になるんだなって。
そうか、自分が知ってる範囲のものでしか当てはめられないか、という気づき。
言われた時は「へー。それがこの人の通ってきた音楽なんだな」と、その人のことが少し知れて嬉しいなって感じだった。
バンドでもよく「ワンオクっぽい」「マイヘアっぽい」「クリープハイプっぽい」も聞くし。
なので、その状態を特別避けようとはしなかった。
なにより、音楽を始めた頃の私は、間違いなく自分のやること=やりたいことだったし、自分が音楽をつくってステージで歌を歌うなんて出来ない、やらない人生の可能性が勝っていたところだったのに、解放されてグラって人生が違う方向に動いた音がして未来が光ってみえていたこと。
梅星えあを名乗る前からファンがいたこと。
梅星えあの音楽のファンができたこと。
「最初は大森靖子ちゃんに似てるって思ってみてたんだけど、今は梅星えあちゃんだから作れるものが好き」って言葉。
それだけで、私は私のオリジナルを自覚できたし、教室から自分の世界が拡張されていく感覚を堪能していたので「大森靖子のパクり」ていう言葉くらいでは止まることがなかった。
冒頭に戻る。
「今日も一緒にがんばろうね🐼🌸」を大森靖子さんの「今日もなんとか」の真似だと思われた。
ああ、どうしよう。死にたいっていうか消えたいな。どうしようどうしよう。誰かと一緒なら私は生きれるのかな
そんな気持ちで打った「今日も一緒にがんばろうね」の言葉。なんとなく付けたパンダと桜の絵文字。
自分のためだったあのツイートは「今日も一緒にがんばろうね🐼🌸に救われてるよ」て言ってくれた人たちがいたから、ずっと続けていた。
そのスタートからここまで生きてきた私を否定された気持ちになった。
明確に言われるまでは、真似って思われてるんだろうなーっていう予感に蓋をしていた。
本当は「今日もなんとか」を靖子さんが二日連続でツイートしたときから少し不安な気持ちになっていた。
しばらくすると「今日もなんとか」を毎日ツイートする大森靖子さんのことが記事になっていた。
私よりもはるかにファンも多く、靖子さんの言葉で救われる人が多いんだからそれでいいじゃん。って思うようにした。
でもやっぱり「私が最初に始めたのにな」って気持ちは拭いきれなかった。
岩手にいたときからずっと楽しみに眺めていた靖子さんのツイッターをミュートした。
真似だと思われていると自覚すると「今日も一緒にがんばろうね🐼🌸」が物悲しいダサくてチープなものに感じた。
私の言葉は生きることをがんばれない私自身を助けるために出た言葉。
靖子さんのは違うし、圧倒的ないいねの数の差とリプ欄をみると沢山の人が今日もなんとか生きようとしている。
私のは圧に感じるし、靖子さんは寄り添っている。とか比べてしまってもうダメだった。
靖子さんをミュートした。
音楽は変わらず聴いた。
誰も悪くない。
善悪はないけど、私が弱い。
「今日もなんとか」。
この言葉に救われる人が増えた中で、傷ついたのは世界に私だけ。
そんな考えも烏滸がましいけど、この孤独感はやりきれなかった。
破滅ロマンスができたので弾き語りはやめた。
弾き語りでのライブは好きだった。
ギターと声、特有の静寂。雑音。
自分だけが自分の好きに奏でて歌っていい、数十分間。
お家、教室、世界から得た地獄をどうとでも煌かせられる数十分間。
でも、今のメンバーが私を選んでくれた。
私は破滅ロマンスの作詞作曲ボーカルの梅星えあとして成長して、もっとメンバーを上に連れていきたいと本気で思った。し、今も思ってる。
成長の過程、私は自分の表現を見つめ直した。
憧れは、感情を解放するような「そんなことするなんて!」て思うようなステージ。
大森靖子さんや神聖かまってちゃんのの子さん、あとモーモールルギャバンのゲイリーさんがかっこいい。
自分がバンドをするなら憧れはここだった。
なのに。
ライブするたび違和感を感じていた。
「そんなことするなんて!」みたいなことをしようとするたびに、自分にブレーキがかかる。
ダイブすらできない。
理由は簡単で、私は目立つのが超苦手。
今でもステージに上がる前はめちゃくちゃ緊張している。
高揚かもしれないけど、身体は震えてて何故かイライラしてる。
小さい頃から当たり前を当たり前にできず、普通にできず、クラスの全員の前に一人立たされ「みんなの時間を奪ってごめんなさい」と泣いて謝るあの時間。
家を出るまで続いた、存在を否定される時間。
変わったことをしたくない。
みんなと同じようにしたい。
普通の話し方で普通の言葉を喋って、マナーとルールを守って、空気を読んで。
恥ずかしい思いをしたくない。
家を出てお金を貯めて学校に入ったけど、結局根本は変わってなくて積極性や協調性が必要な教室は息苦しく二日で辞めてしまった。
顔色を伺い、目立ちたくないから影に隠れて、グループでの行動で輪を乱さないように気をつけて。
がんばってお金貯めて思い切って学校に行ったのに全然できなかった。
こんな人間が「そんなことするなんて!」っていう言動、ライブ中に出来るわけない。
自然とブレーキをかけてしまう。
そういう風にできてしまっている。
こんな人間だからこそ、そんな衝動的で感情的なライブに憧れたんだ。
私にはできない。
諦めたのではなく理解した。
だからロールモデルを変えた。
好きなバンド、アーティストは他にもいる。
新しいものが好きなので日々更新されていく好きなバンドやアーティストのライブを今一度研究した。
そして、取り入れてオリジナルになるまで修正を重ねて。
まだ成長過程だけど、今が一番自分らしくいられている。
私にはステージでリスカも脱衣も破壊も暴言も喧嘩も、ダイブすらできない。
それを超えた先に現れてしまった衝動だけを大切にしよう。
心が軽くなった。
それから靖子さんのミュートを解除した。
この変化は当然、音楽にもダイレクトに影響した。
『鬼』でその頭角が見え始め、『遊天国』を出したとき、ついに「すごく破滅ロマンスっぽい」という感想をみて報われた気がした。
昨日。7月7日。
久しぶりに大森靖子さんのライブに行くことにした。
何が似てるのか、何が違うのか。
今どんなライブをしているのか。
どんな形で存在しているのか。
何を言うのか。
見てしまったら影響されないかという不安をちょっとだけ抱えてZepp Hanedaに向かった。
似ているところ、人の目をよく見るところ。
違うところ、“大森靖子”と私だということ。
どんなライブを、パフォーマンスを。
大森靖子さんに限らず、ライブをみるとき楽しむというより何か自分に生かせるものはないか色々考えてみるのだけど、無理だった。
まともにできなくて、覚えが悪くて、時間の計算もできなくて、誤って謝ってばかりで、自分がいるところが地獄かどうかも分からない状態で麻痺して、ちょっと愛を知ったら離したくなくて、人に依存して、絶望を知って、薬に依存して、また迷惑かけて、強くならないと強くならないとってユーモアでカバーして、傷ついても「これでまた誰かの傷に寄り添える」って思って、目標のためならって犠牲にしていく私の部分、全てのここまで生きた私を大森靖子さんは抱きしめてくれた。
破滅ロマンスの梅星えあではなく、私という人間の心に音楽が触れる。
『マジックミラー』
「あたしの有名は君の孤独のためにだけ光るよ」この歌詞がすごく羨ましかった。
私が有名じゃないから。
むしろ「今日もなんとか」の件で、靖子さんの有名で勝手に傷ついてしまった。
だから、響かないというか聴きたくない部分だったんだけど、本当に本当に靖子さんのタダじゃない痛みを伴う有名が、誰かの孤独のために在り続けている苦しさと気高さで涙が溢れた。
そして大好きな『死神』。
「違うんだ君を死の淵から救いにきた僕天使なのに」
そう。ずっと靖子さんの音楽は私を救いにきてくれてた。
「おまえは死神だと言われて それでもいいやと泣いている」
私が弱いせいで、救われてきた言葉に今度は勝手に傷ついてしまった。
靖子さんの言葉が怖くなってしまった。
ごめんなさい。
「見た目とか体裁とかどうでもいいっていって抱きしめてよ いつか男とか女とか関係なくなるくらいに愛し合おうよ」
もう言葉が出ない。
涙が止まらなかった。
まだ、愛し合おうとしてくれることが辛くて嬉しかった。
破滅ロマンスが岩手に遠征したとき、同日たまたま、その下のライブハウスで大森靖子さんがライブをしていた。
ファンの子たちが大森靖子さんを観た後、ダッシュで破滅ロマンスを観にきてくれた。
いつか大森靖子さんと同じステージに立ちたい。
あのときそう願ったり。
離れてしまったり。
こうしてまた「大森靖子さんが好き」って堂々と言える日が来たり。
帰ってきて、何時間もこうやって書き綴り朝を迎えると、破滅ロマンスの梅星えあの心に戻っていく。
音楽と本気で生きている人のエネルギーはかなり強かった。
破滅ロマンスの音楽も有名になりたい。
有名になって魂レベルの高い大森靖子さんの音楽と音楽で愛し合いたい。
ソールドアウトしたことについて、靖子さんが話していた。
そういうの気にしない人かと思っていた。
ソールドアウトはその分、認められたってことで君が広めてくれた愛があるって証だから、私も絶対毎回ソールドアウト目指したいなと思った。
君と一緒に。
靖子さんの今の形、強かった。
私はこんな形になっています。
ただいま。
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