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何にもなれなかった僕へ

天気予報の向こうの渋谷スクランブル。
「今日は関東で大雪の恐れがあります。路面状況の変化にご注意ください。」

ニュースを消して玄関を開ける

外は一面雪景色

こんなにも雪が積もったのは5年前だろうか

あの頃は友達とはしゃいで外を走り回っていたのに、今では雪を煩わしく思うようになってしまった

雪なんて何も嬉しくない。歩きづらいし、電車は止まるし、何より寒い

そのくせ大学は「気を付けて登校してください」

交通機関もまともに動かないっていうのに無茶なことを言うなよ

雪って奴にはいつも迷惑をかけられる

本当に

雪にはいい思い出がない。



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『ねえ、雪だよ!』

「うん、かなり積もってるね」

『せっかくだから今から抜け出して遊び行かない!?』

「雪だよ?」

『雪だからだよ!』

「嫌だよ。寒いし、濡れるし」

『え、何?雪嫌い?』

「好きじゃないかな。てか授業はどうするの?」

『そんなのいいよ!受験も終わってるんだし、今楽しまないでいつ楽しむの?』

「後でバレたらめんどくさいしなぁ」

『いいじゃん!中学最後に盛大に遊んで盛大に怒られよ!』

「はぁ…」

『ね!行こ!行っちゃお!』

「わかったよ笑」


そう言うと君は僕の手を取って外へ走った。



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「はぁ…寒っ…」


真っ白い湯気が小さな愚痴と共に口から溢れる


「こんな寒い中誰も来ないよな」


大学の喫煙所で一人煙草に火をつける

ため息の白い湯気を掻き消すようにもっと白い煙が宙を舞う



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『うわったばこの吸い殻捨ててある』

「誰かが捨てたんだろうね」

『私たばこ吸う人苦手なんだよね』

「それは僕もそう思うよ」

『吸っちゃだめだよ?』

「吸わないよ。第一あんなの何がいいかわからない」

『だよねー 百害あって一利なし!』


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「なんだよ わざわざ来たのにさぁ…」


<雪で交通機関が停止している為、2限目の講義は休講になります。>

休講のメールを確認して俺は元来た道を辿った

もう一件メールが来ていたがそれは家に帰ってから見ることにする


「講師も来れないなら登校させないでくれないかな」


そんな愚痴と共にまた白い煙を吐く

煙を辿ると雪の中楽しそうに走り回る小学生が3人

学校が休みになったのだろう。手にはヒーローの武器だろうか、光る剣のような物を持っている


「懐かしいなぁ 俺もあのくらいの頃ヒーローになりたかったよなぁ」


昔憧れていたヒーローを思い出したった今火をつけた煙草を地面へと落とす


「空想上のキャラクターって知った時は悲しかったよなぁ…」

「でも、困ってる人を救えれば誰だってヒーローになれるんだって悔し紛れの反論したっけな」


ジュッと音を立てて吸い殻が雪に埋もれる


「結局、誰のヒーローにもなれなかったけど」


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『ねえ!すごい!外が真っ白だよ!!』

「ほら、前向かないと危ないよ」

『ねぇ雪だるま作ろう!雪だる…』


前も見ないで歩く君は雪に足を取られて転びかけたっけ


「危なっ…だから前見なって言ったのに」

『でも〇〇くんが助けてくれたから結果オーライ!』

「ほら立って」

『ふふっ 今のかっこよかったよ。なんかヒーローみたいだった』

「ヒーローって笑 そんな大したもんじゃないよ」


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<同窓会のお知らせ>


「成人式の後か、時間あるから行こうかな」


どこかで君に会えるのを期待していた

中学卒業を機に別れてしまった今でも忘れられない君に。






騒がしい会場では5年ぶりの再会に歓喜する人。昔話に花を咲かす人。卒業後の話をする人。

沢山の同級生が集まるが、皆変わりすぎて、時間が経ちすぎて、名前を思い出せる人が少ない。


でもそんな中、たった一人 今でも鮮明に覚えている

白い肌。綺麗な黒髪。優しい声。柔らかな笑顔。


『ねぇ!〇〇だよね!』


君はあの頃と同じように声をかけてくれる


「久しぶり。史緒里」


『ほんと久しぶりだね!元気してた?』

「うん。史緒里も相変わらず元気だね」

『なにそれ 私だって大人になったんだよ!』

「二十歳だもんね」

『そうだよ!もうお酒飲めるもんね!』

「煙草も吸えちゃうね」

『吸わないよ!まさか〇〇は吸ってるの?』

「まさか。僕には手を出す勇気ないよ」

『百害あって一利なし!だからね!』


あの頃と変わらない笑顔で接してくれる君を見ると、なんだか中学生の頃に戻ったような気持ちになる


それから俺たちは色々な話をした。

まるで今までの空白を埋めるように



『そうだ。〇〇には言っておこうと思うんだけどね』



なんだか君の雰囲気が少し変わったように感じた


「何?改まって笑」

『私ね…』


『結婚するの。』



「へぇ、そうなんだ。おめでとう。」


動揺していないだろうか


『え!反応薄くない!?もっと驚くかと思ったのに!』

「まぁもう俺には関係ないからね笑」


上手く笑えているだろうか


『何それひどくない?仮にも元彼でしょ?』


"元"という言葉が突き刺さる


「普通元彼に言うかな?笑」

『〇〇には言っておきたかったの』

「そっかそっか」

『〇〇は?彼女とかいないの?』

「今はいないよ。」


君が忘れられなかったなんてもう言えないな


『まぁ〇〇もいい子見つけなよ!応援してるぞ〜』

「ふふっ ありがとう」


君はふざけて笑う

俺の笑顔は引き攣っていないだろうか


『あ、そういえば中3の頃書いた二十歳の自分への手紙貰った?あれ一緒に読もうよ!』

「いや、明日も朝早いからここら辺で帰ろうかな」

『えーそっかぁ、久しぶりに会えたけどもう帰っちゃうのかぁ』

「ごめんね笑」

『でもまた話せて嬉しかった!またね!』

「うん…またね。」


そう言って君はまた別の友達の元に向かう

俺はそんな史緒里を背に同窓会を後にした



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「二十歳になった僕へ

今僕には好きな人がいます。
雪みたいに白い肌の優しい笑顔が素敵な人です。

きっともうわかると思います。

僕は明日その人に告白します。

そこで二十歳の僕へ質問があります。
僕の告白は成功しましたか?
成功してたら二十歳になっても一緒にいられたらいいと思います。

あの人の大切な人になれたらいいと思います。

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ここまで読んで俺は手紙を閉じ、外へと歩き出した。


外は一面雪景色

5年前と同じ雪景色


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『あー楽しかったね!』

「そうだね笑」

『おっ!〇〇も少しは雪好きになった?』

「うん。ちょっとだけね」


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やっぱり僕は雪が嫌いだ。

雪を見ると君の声が、あの頃の記憶が蘇ってきてしまうから


だから僕は君の影を掻き消すようにそっと
煙草に火をつけた。

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