泡かぼちゃ|第16話

自動販売機の横に立って、勇次郎はひまを持て余していると見知らぬ男が話しかけてきた。

身長の高い、のっぺりとした顔の男だ。運動を何かしていたからとかいう理由ではない遺伝的かつ生物学的な強さを持ったような人物で勇次郎は心の中で少しひるむがなるべくそれがバレないように缶のカフェオレを買う。

カフェオレはカフェインと砂糖の効能が打ち合って、集中力が上がる気がしているし何より好物だった。ただカフェオレを好きだというと子供じみた印象を与えるので、カフェオレではなくカフェラテが好きだと勇次郎は言うようにしている。

あたかも、カフェ巡りが趣味のOLのような可憐さをもっているかのように演じることが場合によっては好印象を与えたりすることがあることを勇次郎は知っている。

女性的であること、そして男性的であること。

このチューニングをしながら生きると、なんだかお得なことが最近は多い。もちろん、人の目は依然冷たさをもったときも非常に多いが、幸いなことに勇次郎のいるコミュニティではそんな前時代的な人物はあまりいない。

就活のときに面接にしたときは、九州出身であることを告げると「やっぱり男らしいと思ったら、九州出身かぁ。九州男児だねぇ。」と言われて、返答に困ったことがある。

その面接ではいつも通りテンプレ的にビジョンへの共感と、学生時代に取り組んだことをあたかも今考えたかのような表情で答えたが、あいにく(?)合格はもらえなかった。

しかし、まぁいい。

そんな企業はこちらから願い下げなのだ。

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