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ひとりとふたりの狭間


 妊娠17週目、いわゆる安定期である。
 いまだにじぶんのお腹のなかに、別の生命がいるということには戸惑いと驚きを感じている。

 と同時に、妙に焦る。

「子どもが生まれたら、もう自由な時間なんてそうそう取れないんだよな」
「生まれるまでに、したいことをしておかなきゃ」
「行っておきたいお店も、カフェも、趣味でしておきたい活動もたくさんある」

 でも、思ったより身体はうまく動かない。
 つわりが終わっても体調は万全ではないし、急につわりがぶり返したようになるときもある。

 行きたい場所はいろいろあるのに、車酔いで遠出ができない。
 夜は体力が尽きてさっさと寝てしまうので、ちょっぴり読書をするのすら難しい。

 趣味。
 旅行。
 資格の勉強。
 友人と遊ぶこと。
 カフェめぐりや外食すること。

 やりたいことばかりが積み重なって、貴重な安定期をむだに浪費してしまっている気持ちがする。

 じぶんのやりたいことばかりでなく、赤ちゃんグッズの選定や、出産・育児関係の制度の勉強、育児本を読むことやマタニティヨガなど、子どものためにしておきたいこともいろいろある。

 やりたいことの多さに比べて、時間と身体のキャパシティが追いつかない。
 滑車を回すハムスターみたいに、カラカラから回りしているようである。


 もちろん、楽しみな面もある。

 子どもがどんな顔をしているのかとか、性別はどちらなのかとか、早く産まれたところを見てみたい。
 子どもといっしょにお店や旅行に行くというのも、それはそれで新鮮だろう。
 そのうち首がすわって、ハイハイをして、立ったり喋ったりするようになるんだろうなと考えるのも微笑ましい。


 ただ、どうしても受験前夜みたいなじりじりした焦りは続く。

 これがじぶんひとりでいられる最後のモラトリアムなんだよなとか、逆に早く産んでしまって身軽な身体になりたいなとか。

 おそらく生まれるそのときまで、私はひとりとふたりの狭間で焦りつづけるのだろう。
 それはそれで、妊娠・出産にまつわる貴重な時間かもしれない。

 焦りと不安に揺らぎながらも、こうした「いま」をなるべく噛みしめておきたいと思っている。
 きっと将来ふり返れば、この時間すらも贅沢だったと懐かしむようになるのだろうから。

 

 


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