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レッドカーペットと「ととのう」カラス

 急きょ思い立って冬のピクニックに行ってきた。
 ここ数年、今までオフシーズンとされていた秋冬にピクニックやキャンプを楽しむ人が増えているらしい。流行りに乗っかって初の冬ピクニックというものをやってみた。
 何しろ急な思いつきだ。お弁当はスーパーで調達することにして、持ち物は水筒に入れた飲み物、家にあったみかんとレジャーシートだけという身軽さで家を出発した。
 行き先は家から少し離れたところにある河川敷だ。桜の名所でもあるこの場所は春は花見をする人で賑わう。秋は紅葉もきれいなのだが、紅葉に関しては穴場のようで人が少なくておすすめだと夫が言っていた。

 だいぶ葉が落ちているものの、じゅうぶん紅葉は楽しめる。人も少なく静かで、そのぶん鳥の鳴き声が聞こえるのも良い。
 さっそくレジャーシートを広げて、お弁当タイム。いつものスーパーで買ったお弁当なのに、青空の下で食べると何倍もおいしく感じるから不思議だ。
「ピクニックやキャンプって秋冬の方がいいな」
 夫の言葉に私も完全同意だ。何しろここ最近の夏は暑すぎて、日中は屋外で過ごすこともままならない。それに夏場は虫との戦いもある。それに比べて秋冬は防寒対策さえしっかり行えば快適にアウトドアを楽しめる。

 お弁当を食べ終えて、頭上に広がる紅葉を眺めたり、「今鳴いている鳥は何という鳥なんだろう?」なんて他愛のないおしゃべりをしながらのんびりと過ごす。
 ここの近くはマンションが建ち並び、駅や幹線道路も近いのに本当に静かで自然が豊かだ。木の種類によって紅葉の色もタイミングも違うことや鳥が木の実をついばむ様子など、普段ならじっくり見ることもないようなことがすごく興味深く思えて、自然の中にいると普段と違うことにアンテナを張っている自分がとても新鮮だった。いつの間にか、自然の中に自分が「お邪魔させてもらっている」という感覚に変わっていた。

 川の近くにカラスがたくさん止まっている大きな木があった。そこにいるカラスたちは何というか鳥らしくてのびのびとしていた。ゴミ捨て場を漁る「都会の厄介者」ではなくて「自然の中にいる野鳥」として羽をつくろったり、木の実を食べたりしていた。
 そんな本来の鳥らしいカラスをもっと近くで見てみたくて、驚かせないようにそっと近づいてみた。すると川と川辺にいるカラスもよく見えた。
 川辺にいた3羽のカラスはちょんちょんと跳ねるように川の中に入り、水浴びを始めた。
 カラスの水浴びなんて見たことがない。これっていわゆる「カラスの行水」なんじゃない!?と思い、カラスの行水が本当に短いのか見届けることにした。
 カラスは浅瀬でバサバサと何度か羽ばたいた。水浴びの方法は水鳥と同じだ。それを5回くらい繰り返すと、やって来たときと同じようにちょんちょん跳ねながら川辺に戻って濡れた体を乾かした。
 別に特別短いというほどでもないな、と思って見ているとカラスは再び水の中へ入っていき、水浴びを始めた。
 え、待って、むしろ長いじゃん、と思いながら気持ち前のめりになってさらに見守る。
 結果的に、カラスは水浴びと休憩を3セット繰り返した。2セット目が終わるくらいにこの一連の流れはどこかで見たことあるなと思ったら、サウナだった。サウナからの水風呂からの休憩の流れにそっくりだった。
「ととのえてる……」
 思わずそんな感想が飛び出した。
 水浴びを終えて川辺にたたずむカラスが心なしかスッキリしたような様子に見えた。
 私が見た3羽に限ったことかもしれないし、この地域のカラスだけに見られる習性なのかもしれない。しかし、私が実際に見た本当の「カラスの行水」は短い水浴びではなくて、サウナで「ととのえる」ように丁寧に水浴びを楽しんでいた。
 とても興味深い発見ができた。自然の中ならではの貴重な体験だ。

 レジャーシートでくつろいでいた夫にカラスの行水の件を報告すると驚いて声を出して笑っていた。こういうことを共に面白がってくれる人で良かったなと思う。
 せっかくなのでいろいろ散策してみようと紅葉の並木道を歩いてみることにした。

 散策して何枚か写真を撮るうちに、木の枝の方より地面にフォーカスした方が見応えのある写真が撮れることに気づいた。いろんな色味の赤が地面いっぱいに広がって、まるで赤い絨毯を敷き詰めたようだ。サムネイル画像に使用したこの写真は特によく撮れた写真だ。

 五感をフルに使って、リラックスして、面白い発見もあった。たまには自然の中で過ごすことも良いなと改めて思った。これを機会に秋冬ピクニックを趣味にするのもいいかもしれない。

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