マガジンのカバー画像

短編小説的な日記「異郷」

3
脚色に脚色を重ねたものに誇張を塗りたくった梟の日記。
運営しているクリエイター

記事一覧

異郷 02

この日の日記には、私が「異郷」で働くことになった経緯が書いてあるのだが、それは、省略させていただく。今重要なのは、みなさまに「異郷」について知ってもらうことだからである。日記の続きに戻る。 →梟について →短編小説的な日記 →前回「異郷」異邦人の喫茶店01 異邦人の喫茶店02 –ススキノのビルの谷間を彷彿とさせる薄暗くおぞましい廊下の先には、下の方からオレンジ色の濁った光がちょろちょろと滲み出た扉が見える。1階には他に2、3の部屋がある様だが、辛うじて文明的な活動が見ら

異郷 01

異邦人の喫茶店01  私が喫茶店「異郷」でアルバイトをする様になってから5年が経つ。「異郷」と私の出会いは、大学へ入学した当初の純粋無垢の化身の如きこの私を、変わり者のレッテルをそこら中からかき集めるような人間にするべく、何者かが仕組んだものに違いない。 ここ喫茶店「異郷」は、北海道札幌市のとある2階建ての雑居ビルの1階に陣取っている。5年もここに通った私には、今更この場所について新鮮な目で観察することは叶わないので、当時の日記を一部抜粋することにする。 –ビルの外見は

短編小説的な日記

梟は何処へ行くのでも必ずモレスキンのメモ帳を持ち歩いている。ハードカバーのそれは、何処でもさっと開き書くことができる。彼は、出先で見たものをスケッチしたり、思い付いたアイディアを書き留めている。そして、1日の終わりにはその日の出来事を日記として記録している。 しかし、この日記に問題がある。1日の出来事を振り返って書くにしては、膨大な時間と思考が費やされたそれは、日常を遥かに逸脱したものとなっている。 特に、彼のアルバイト先である「異郷」に関するものは彼の精神状態を心配するほ