富山・金沢 寿司めぐり
富山湾は、遠浅のちょうど逆にして、岸から離れると転げ落ちるように深くなる。その深さは、日本三大深湾にも数えられ、湾内最深部は1,200メートルにもなる。
この地形ゆえに、日本海の荒波は減速されることなく湾に押し寄せて、海底のミネラル・栄養分・エビ貝類を深層水ごと巻き上げる。
その一方、陸からは富山の誇る名峰、立山連峰から湾へと大小の河川が流れ込み、プランクトンを豊富に含むとならば、即ちこれボーイミーツガール。富山湾は魚介類のカーニバル(天然のいけす)となる。
そこを定置網にて丁寧に仕留めるのが、ここらの漁法である。
参考:
■ 天然のいけす http://www.nihonkaigaku.org/kids/door/preserve.html
■ 富山湾 https://ja.wikipedia.org/wiki/富山湾
*** それでは行きましょう ***
3月1日 富山湾 ホタルイカ漁 解禁
ひとつ目に紹介するのは、富山県は氷見にある「亀寿し」である。
旬のうまいものを、安く食わせるのが料理人の本懐だ。とでも言わんばかりの大将の振る舞いにもてなされる。
自分の腕で、目の前の人をガツンと幸せにする
そんなことが出来る料理人の生き様に、うっかり憧れたりなんかしながら、刺し身をつまんで、地酒を呑み、途中からは握りへ移行する。
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またこの時期・この地域で忘れてはいけないのは、寒ブリだろう。なかでもこの氷見の名前を冠した「ひみ寒ブリ」は、大間のマグロよろしく、全国にその名を轟かせている。
「いいやつがある」と大将は、新しい一尾を捌き、その美味しいところを出してくれた。
説明も野暮というもので、やや恥ずいが、食べたらこうなりますというのを見せるに留めよう。
もはや笑ってしまっている
氷見には温泉もあるので、友人家族を連れてゆっくりするのがオススメ。
*** 続きましては ***
料理人は、世界に出たほうがいい
次は富山県は富山市。グルメ通には有名らしい「鮨人(すしじん)」
当日予約に滑り込んで到着すれば、カウンターのみの座席の前に、ピカピカに磨き上げられた包丁がずらり並び、そのムードに圧倒される。
富山の名産「白エビ」からコースが始まる。
手前が白エビ、奥が甘海老
「僕の寿司は、砂糖を使わず赤酢だけで仕上げてるから、たくさん食べても喉が渇かないのが特長」
そんな話から、一品づつ、大将とお話しながら料理が進む。
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ひょんなことから、僕自身がもともとバックパッカーで旅好きであること。ひとところに留まるよりも、色々な場所を訪ねて、人と出会って、そんなあり方が出来るといいなと思っています、てな感じのことを伝えると、思うところがあったのか、色々とお話してくれた。
「僕も、ここのメンバー引き連れて、時々バックパッカーやるんですよ。海外に1週間とかお店を借りて、その土地の魚で寿司を握ります。だからよく空港で止められて。包丁が料理人の持ち物だとわかんないみたいです」
生き様がロックである。
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ひとつひとつのネタに対する研究は、むしろそんな海外における「よくない条件」での創意工夫が活かされる。
鮮度を踏まえ、敢えて-50℃で思い切り凍らせることで繊維を砕いたイカは、溶けるような柔らかさを獲得する。
もしかしたらイカではなかったのかもしれない
その他にも、料理人というより、むしろ人間(男)としてのデカさを感じるお話を聞く。
*** お箸休め ***
大将の話
「外国で変なヤツに絡まれたら、こう言ってる。俺はお前の町がいいと思って、カッコいいと思ってここに来てんだ。その俺にお前は何がしたいんだ?って。そんな風にぶつかれば、最後は人間同士のこと。最終的には、一緒に酒を飲んで仲良くなる」
「一度ぼられた店には、もう一回行くことにしてる。普通はいっぺんで懲りてやめちゃう。でも俺はもう一回行く。そしたらそんな奴はいないから向こうも驚くんだ。それで距離が縮まったら、今度は色々と教えてくれるようになる」
「俺は、最終的にどういう人間か、っていうのがないと駄目だと思ってる。俺は料理人でこの富山を誇っているから、ここに人を連れてきてやりたい。だから待ってるんじゃなくて海外に出る。そこで腕を奮って、うなる客に言う。俺の本気が見たかったら、富山に来いと」
他にも、子育ての話や、ビジネスの話、多岐に亘る話題のどれに関しても、非常に現代的で、鋭い知性と感性が同居しているのを感じた。多分とても頭のいい人なんだろうと思う。ハートが熱いのは言うまでもない。
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一品一品の、素材の良さ、さらにそのうまみの引き出し方などは、洗練が過ぎて僕には1周半ぐらい回って感じ切れなかった部分もあった気もするが、ひたすらムードに浸っているうちに、あっという間に時間が過ぎた。
すごいうまいやつ
本当においしいものを夢見心地で食べさせられたら、あっと、落ちてしまう女性の気持ちが少しわかったような気がした。
*** 最後のお店 ***
目に見える幸せ
フィナーレを飾るのは、石川県は金沢からJR七尾線で北へ26分。かほく市は宇野気にある「寿司処 松の」です。駅から4-5分も歩けばすぐに到着する。
前出の「亀寿し」「鮨人」と違うのは、その圧倒的なパンチ力にある。
イクラとカニ。見ての通り。イクラとカニ。
おいしいものを、腹いっぱいに食うたら、そら幸せなるで、というような。そんなシンプルな法則が成り立っている。気取っていないのに、品と風格が漂うこのお店には、あちこちに笑顔が溢れる。
もしかしたら、そんな顔を見たいがために、ネタをこんなに大きくしているのかもしれない。
シャリが見えないです!
現店主は、控え目な性格とお見受けしたものの、上記のような、驚くほど大きなネタを手早く出してくる。それはまるで、ついて来れるかなと試されているようでもあった。ビールからはじめて冷酒に移り、握りをコースで一人前頂いた上で、いくつか追加で注文もする。
お店は9時閉店と早めで、翌日は定休日だったらしい。お客さんは笑顔で一組づつ店を後にする。
あまりに、うまいうまい連呼して注文する僕たちを見て、こいつらちょっとうるさいなと思われたかもしれない。
ネジマグロの見たことのないフォルム(二段重ね)
「これサービスね」と小声で口封じに来た。もう大満足。大きな声では言えないが、あとアジとサザエも来た。何なのそのホスピタリティ。僕はもうわけがわからないよ。
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そんなこんなで、北陸は富山・金沢の寿司めぐりは、大団円で幕を閉じた。素晴らしい料理人に饗(もてな)されて、ただひたすら幸せな時間だった。
僕は実家の奈良が好きだが、もし他の田舎を選ぶことができるのなら、次は、北陸に生まれたいと思う。
寿司を食べているとき、ふと親父の顔が浮かんだ。
そうね、きっとそうしよう。
(以上)
PS. 写真は、富山県射水市の新湊。遠くに立山連峰が見える。