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牛と鼠〜リアルどうぶつの森〜

これが愛じゃなければなんと呼ぶのか
僕は知らなかった

呼べよ花の名前を ただひとつだけ
張り裂けるくらいに

鼻先が触れる 呼吸が止まる
痛みは消えないままでいい

       米津玄師 『馬と鹿』

奥飛騨の冬は深い。

4月後半になった今でも、ここ奥飛騨では断続的に雪が降り、
寒い春が続いている。

まだ桜も咲いていない。

牛と鼠

牛。
僕は自分の性格や物事に対する態度をして、どうも牛的なところがあるような気がしている。

基本的にはのんびり屋で、衝動や感情に突き動かされるタイプではなく、ある程度の道のりは前提とした上で、「こうかな」と思うことを継続的に取り組むタイプではないかと思う。

牛歩、牛歩と。


鼠。
ネズミはいい。かわいい。小動物代表であり、哺乳類の草分け的な存在感、およびどことない賢者感もある。またそのチャーミングな見た目や動きは、よく擬人化の対象になるところからも、人類からも一定の好感を寄せられていることが伺える。

女の子の顔の系統としても、げっ歯類タイプは安定した人気を誇っている。多分。

さて、そんな今日は、牛が鼠と戯れるお話です。

リアルどうぶつの森 開幕

鼠は、「チューチュー」言わない。
奴は、「カリカリ」言う。

どういう進化の果てか、或いは、神様のイタズラか。

ネズミは歯が伸び続けるために、何かしらを齧り続けなければ、いずれ口が歯で塞がりメシが食えなくなる、という気の毒な宿命を背負っている。その結果、ネズミの存在は、この「カリカリ」音で把握されることが多い。

はずだったが、先日は僕の足に普通に触れて来た。
めちゃくちゃビっくりした。

なんと積極的な動きだろうか。

牛に乗って、最後にぴょんと、一等賞でも取ろうと企てたか。
それとも、前世の重要な誰かの生まれ変わりとして、コンタクトをとろうとしてるのか。

とりあず、捕まえて捨てることにした。
なんていうか害獣なのでね。

ステイホームの昨今、早速Webサイトをあたってみると、ネズミを捕まえる罠は自作出来るらしい。

参考:ネズミの罠は自分で作れる!バケツやペットボトルで駆除する方法

そして最初の罠が、完成した。

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木の渡しを伝ってバケツの高さまで駆け上がると、その先には、あら、美味しそうなマヨネーズ。

ヒモで渡されたペットボトルの上のマヨネーズをなめよかな~なめよかな~と、足場を歩いたら、、、、

「るつーーん!」という設計である。


ポイントとしては、ネズミがバケツに落ちた後、脅威の跳躍力で飛び出してこれないように、若干の水を張ること。

この水の量を多くしたり、さらに水面を隠すために籾殻(もみがら)を敷き詰めたりすれば、落としたあとに溺死させることも出来るらしいが、僕の目標は、生け捕りにして、庭に打ち捨てることである。


なお、自作上の工夫としては、
マヨネーズには、オムライスを思わせるニコちゃんマークをあしらい、落ちた先には、水ではなくお湯を張ることで、半身浴も味わえるという、落ちても嬉しい、心も体も温まる罠、に仕上げたこと。

それではもう一度。

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しかしこれが、からっきし入らない。
カリカリ音を、近くに遠くに聞きながら、1日目は終了した。

姉の助言

「わたしは2回は捕まえた。3回目はねずみと目合った。」

同じ実家で生まれ育ち、どこでそんな経験の差が生まれたか全く不明だが、うちの姉によれば、ネズミを捕まえるのは難しいことではないらしい。

その中にいる状態をつくれたら捕まえやすいよ。袋で捕まえる場合はしっかりそこにいることを確定してからそおっとしかし素早く捕らえる。コツは、かさかさしている食べ物の袋などごと捕獲。

という有り難いアドバイスを貰った。

なお、姉が捕らえた過去ネズミ達は、近くの公園まで行って、さよなら、と言ったかどうかは定かではないが、放したそうな。

ふむ…。
確かに、かかりのよくない罠であったが、それなりに思い入れもある。2日目はこのメンテナンスをすることにした。警戒するネズミのハートを癒やす必要もある気がしていた。

というわけで、こうなった。

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渡りの橋は2本に増やし、通路故障のない快適な旅を約束すると共に、いくぶん鮮度も落ち色味の変わったマヨネーズにつきましては、新鮮なものを追加し増量を行い、社員一同、ネズミ様のご来訪を、今か今かとお待ちしておりましたが、結局この日も空振りに終わった。

なお、若干の足し湯も行った。

思いが交錯する3日目

辛ラーメンを食べた。
お湯を入れすぎ、辛さが薄ぼんやりした辛ラーメンは、もはや強みでも勝負できなくなったロートルみたいで、少し切なかった。

姉はもっとシンプルに捕まえている。

この厳然たる事実に向き合う必要を感じた。

そこで、寝かせたダンボールの奥に、食べ終わった辛ラーメンのカップを倒して置くだけ、というひねりもなにもない、簡易も簡易な罠を作ってみた。


すぐに入った。


コの字型のダンボールの中、に置いた、円柱の辛ラーメンの輪っかの中、に入った、ネズミ。あっけないほど簡単であった。あの我が社を上げての、ホスピタリティには見向きもしなかったのに…。

まぁいいや。全然いい。

これが辛ラーメンに夢中のうちに、
コを字を、右に90°回転させて、|_| にしたら勝ちである。

こっそりこっそり近づいて、えいっと、足でダンボールを回転させる。


その瞬間。

物理的には最大飛距離が出るとされる45°ぐらいの角度で、
ネズミが発射された。

それはまるで1998年の冬季長野五輪、ラージヒルの原田。
さすがアルプスのネズミである。

着地時にテレマークを決めたかどうかは見えなかったが、すぐに消えた。
その場には、不思議な余韻が残った。


が、しばらくテレビを見てから、チラッと覗いてみたら、
またもとの形にしたコの字の奥の、円柱の輪っかに入っていた。

トラウマとかないんや。

さきと同じことをトライする。
が、やはり多少は警戒心が上がったのだろうか。

ラージヒルどころか、ノーマルヒルにも付き合ってくれない。
残念でならない。

次は、岡部の低空飛行作戦が見たかったのに・・・。

そうして、
テレビを見て、覗く、近づく、逃げる。
テレビを見て、覗く、近づく、逃げる。
これを数回繰り返した。

うーん、、、
頭を悩ますのは、最後の捕獲方法。
この罠では、駄目だ…。

しかし、この「ネズミの通り道」を発見したことは大きかった。アイツがここを確実に通るという実績を抱きしめて、勇気を持って、一歩戻ろう。

あの罠に。

これが愛じゃなければ 何と呼ぶのか

どんな人生にも、クライマックスというものがある。
そのタイミングで、何をどう選ぶのか、そこに生き様というものがある。

ニューシネマパラダイスを見た人なら、
きっとその意味がわかると思う。

「ネズミの通り道」に移設した、心も体も温まる罠だったが、少し問題があった。カピカピになったマヨネーズが、全く美味しそうに見えない。

これでは、ホスピタリティが足らない。

ペットボトルをくるっとひっくり返し、小学校の先生が、よくできました、とばかり朱色の毛筆でくるくるっとやってくれたあの花だったのか、雲だったのか、そんな模様をあしらえた。

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こんなもんでええやろ。
またテレビを見ながら、なんとなく、でも確実に耳を傾けて、待つ。


あいつが、戻ってくる。
カリカリ音が聞こえる。

いつもより、2音ぐらい低めのそのカリカリ音は、
視界の影で、アイツが木の皮を食んでいることを、語っていた。

バケツに上がるスロープはまるで、富士急ハイランドのFujiyama.
前は見えない。左手にただ、富士山だけがきらめいて見える。

お父さん、お母さん、ありがとう!
あの頂上へ上がる時に僕は、そんなことを叫んだ気がする。

呼べよ花の名前を ただひとつだけ
張り裂けるくらいに

彼はそのクライマックスへと、急ぎ足で木の皮を上がってゆく。
それを僕の視界が捉えていた。

ああ、どうなるんだい。

頂上にたどり着く、前には、ペットボトルの上にあるマヨネーズが見えるハズだ。紛れもなく、最高地点。

鼻先が触れる 呼吸が止まる

あとは、足を伸ば、、、

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さんくても、マヨネーズ届くんや。

るつーん、わぃ!!!

(つづく)

よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。