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夏のハチャメチャラブリーデイズ

夏だ。今日は特に暑かった。8月8日、東京の最高気温は35度で、その直射日光は地黒の僕ですら、こりゃいかんと思うほどだった。最寄りの駅を出て、いつも使っているコワーキングスペースへと10分弱、街路樹の日陰を歩く。上からセミの鳴き声が降ってくる。

セミだ。セミが鳴いている。そうか、はたと気が付く。セミにとっても夏は恋の季節なのだ。期間限定の、一生の恋。

恋だ。もういいか。でも、言わせておくれ。「生き恥」をテーマに書いていれば遅かれ早かれぶつかるテーマ、それが恋愛。焦らしのテクニックなど、夏には無縁よ。早速、書いていこうじゃない!!

まさまさの恩返し
お昼過ぎ、前述のコワーキングスペースにて、僕はとある人のため、資料をまとめていた。南アフリカで出会って以来、とてもお世話になっている旅人仲間である彼女が、明後日からの連休に宮古島へ行くと聞いたからである。しかも「長年思い慕っている人との2人旅行」だという。

脱ぎましょう、この一肌。お伝えしましょう、私が知る限りの、名ビーチ、名メシ屋、名サンセットポイントーー!ということで、かちゃかちゃ、ふむふむ。かちゃかちゃ、なつかしー!また行きたいー!とか寄り道もしつつ、思ったより暇はかかったが、まとまった。

いざ送信。
「夏のハチャメチャラブリーデイズをお過ごし下さい」という煽りの入ったコメントと一緒に送りつけた。

返事が来た。
「ステキー!もう台風で欠航決まったとか言えない!」

うそーん、となって、しょんぼり眺めるGoogleの地図に刺されたピンと詳細説明。「見所」とか、「アクティビティ」とか、「飯」だとか。カテゴリ別にまとめたリスト内の各アイテムは、上からオススメ順に並んでいる。

そんな最後のカテゴリ「その他のスポット達」の中、遊び心で含めた『ガールズバー HANA』の文字がある。

宮古島のこと、言わんとこな
遡ること2年前、沖縄本島から南東に飛ぶこと1時間弱、僕は宮古島にいた。そしてこれは何かの陰謀ではないかと訝っていた。

おかしい。良すぎる。これは何かがおかしい。こんなに素敵な場所ならば、どうして今まで「宮古島最高~!」の声を聞いたことがなかったのか。

ああ結託。これは結託。秘密基地ってことか。宮古島のことは誰にも言わんとこな、ってちぎりを交わしとるな。だってこんなにいいんだもの!!

そんなこと思いながらの一人旅。ゲストハウスに泊まりつつ、レンタルバイクを借りて足を作り、あちこち名所を巡るスタイルであった。

日中はビーチを巡り、宮古ブルーに抱きしめられて、夜はバイクの電気をわざと落として、街頭のない真っ暗な道をまっすぐ走って、星を見上げた。

ああもう、どうにでもしてくれー!という開放感の塊であった。

大丈夫、夏がついてる
統計によると、僕は夏に恋に落ちる。さて、皆さんはいかがですか。突然の逆質問。こいつ気持ちよく語っとるなーと油断してたらグサっと行こう。

楽しい楽しい宮古島にも、ついに最後の夜が来た。閉店間際に駆け込んだ居酒屋で、気持ちよく飲み食いして、まだ宿には帰りたくなかった。当たり前である。我らの夜はこれからじゃないか!

こんなステキな宮古島の、今日が最後の夜じゃないか!!

というわけで、付近を探して見つかった一軒のガールズバーの門を叩けば、満員御礼の大盛況。そりゃしゃーないな。結構勇気出したのに。なにせこちとら一人やからね、、、と一瞬萎えそうにもなる。

でも大丈夫、夏がついてる。
そうして僕はたどり着いた、『ガールズバー HANA』に。

何じゃその暮らしはー!
「20時とか21時ぐらいから朝の4時まで飲んで、それからお昼まで寝て、起きたらビーチで泳いで、夜になったらまたここに飲みに来る」

なんということだろう。
彼女らは、飲みに来ています!店長!店長ー!

とはならない。全然いい。むしろほとほと関心するし、何なら憧れてしまう。僕がもし生まれ変わって、女子大生になれるなら絶対にやりたい。需要があるかは知らないけれど。

飲み放題で、明朗会計で、料金も安い。いや、そんな話はどうでもいいな。リゾートバイト(通称リゾバ)の女子大生と好奇心のままに色々話をする。

ベタで申し訳ないけど出身地とか?、、、ふんふん。愛知から、福岡から、山梨から。ここは女子大生の博物館なのかい?

どういう流れで働くん?、、、なるほど、今はLINE上で応募するみたいな感じで、簡単な自己紹介やら意思確認やら、見た目チェックに画像のやりとりがあって、ほいでOKとなったら、働ける日程送れば、それに応じて宿の手配をしてくれて、さらに長期で働ける子には、片道の航空券代を出してくれたりもするんや。そうなんや。。。

聞いたことなさすぎ!

なお宮古島の現地の人は、いつもの子と話したい場合はスナックに行くし、新しい子と話したい場合はガールズバーに行くそうな。入れ替わりがあって新鮮だから、と。

何じゃその暮らしはー!

ここに失敗は存在しない
開放感と好奇心の赴くまま、話して飲んでするうちに、前の女の子が変わっていく。

確か2人目に彼女はやってきた。出身は山梨で、就職は東京の病院に決まっているという。バイトの採用プロセスも彼女から聞いた。

僕が入店する時には、複数人で呼び込みに立っていて、ちらと見た時から気がついていた。その「あれっ」というような感覚に。

明るい髪色をした他の女の子2人が仲良さそうにお喋りしているその隣、落ち着いた髪色の彼女は、2人とほんの少し距離があって、その佇まいには品があった。華というものは隠せない。

「私、実はバイト今日までなんです。明日、朝の便なので、今日は少し早く上がらせて貰うんです。」

ええ!そうなんや。奇遇やなー!実は俺も明日の昼のフライトやねん。朝って何時?へー8時か。確かにそれは最後までおるん無理やな。いやー最終日とはすごいなー。お疲れ様でした。大変やった?そっか、それはよかった。うん、ありがとう。気をつけて。とか話をした。

そして女の子が変わる。もう少し話したかったけれど。

次の子は、気持ちよく日に焼けた、明るい子。夢のような一日の流れは彼女に聞いたんじゃなかったかと思う。このお店でも長いこと働いているそう。

また次の子は、カラオケを歌う子。君も歌いよし、的なことを言うので、ちょっとだけ考えて、ぴぴぴと送る。

”あいたくなーったときのぶんまでー!”

Mr.Children「花火」である。言わずとしれた名曲であるが、なんだろう。酔っていても気が付く、ややスベり感。ああそうか。もっと単純に楽しい感じのやつを入れるべきやったんかな…。

コバルトブルーの、人魚の海で的な?でもそれはベタやと思ったんや。宮古島来たからって寄せすぎやん。照れるやん、と。焦りながら、絶唱する。

でも、やっぱり大丈夫。

歌い終わった頃には、一人のちょいわる風の兄ちゃんは傍で一緒に歌ってくれていて、離れた他の席のおっちゃんは拍手をくれた。

ここではミスというものがない。

時間が来てお会計してお店を出たら、さっきの3人目の明るい子が、また店の前にいた。やぁやぁと立ち話をして、連絡先教えて貰ったり出来る?とか聞いた。

「また宮古島来たら言うなー」軽口はたいて宿に帰った。

朝8時の便
起きれてしまった。多分午前7時ちょい過ぎぐらい。「明日の朝8時」が頭に響いていた。もうすぐ飛び立つのか。

空港は宮古島の中央に位置するので、離発着する飛行機は、島中からよく見える。どこからでも見送れる。

ふと考えて僕は、レンタルバイクで走り出した。宿から飛行場までは、少し距離がある。一旦、空港まで行ってみよう。間に合うかもわからんし。とりあえず近付けるだけ、近付きたかった。

朝からカラッと晴れた日だった。シートのお尻があついあつい。

到着。駐車場にバイクを停める。ヘルメットをハンドルにかける時、シートの上にボタボタっと汗が落ちた。

空港はバームクーヘンみたいなカタチをした3階建てで、早足で2階の出発ゲート付近めがけて行ってみる。が、誰もいない。そうか行ったか…。

掲示板を見る。

あれ、8時出発の便がない。
嘘やったんかな。まぁ普通言わんか。でもあの子はそんな風にサラっと、嘘の時間を言う感じないけどなー。などと短い時間でも、心を捉えるあの子の印象で考える。

次の便は、8時55分、那覇行き、JAL。

待てよ、もしかして、これちゃうか。1時間前の8時に空港に着く必要がある便って意味ちゃうか。ていうか、JALなんや。ANAやと思ってたわ。

そんなとこも含めて、彼女の雰囲気にあってるなーとか思っていたら、ふと気がついた。来るやん、と。

いや、まだわからんか。いや、わかるわ。多分これやわ。どうしよう!!急にあたふたして、僕はバームクーヘンの2階を周り始めた。

搭乗時間まではまだ時間があるけれど、いつ来るかはわからない。まだ来てないのは確か。歩きながら考えよう。

何をや!!!

ちょっと待った。
まず怖くない?怖いんじゃない?
昨日の今日で、見送りに?一目会いに?怖くない?

素直に言うべきか。好きになったと。もう一目だけ会いたかったと。連絡先を教えて欲しいと、そういうことよな?

いや、でもさすがにそれは。。。
買う予定も、余裕もない、みやげ物屋に入る、、、だけ!
何してんねや、出よう!

とかしてるうちに、搭乗口ゲートへと戻ってきたら、
人が並んでいる!搭乗受付が始まっていた。
彼女の姿を探す。

あっ…!!

列に並ぶ後ろ姿は、昨日とは違うカジュアルな装いで、薄手の白いパーカーを着て、ビーチサンダルを履いていた。

足を止めて眺める。間違いない。

荷物検査の列が一人、また一人と進んでいく。
僕はバームクーヘンを時計回りに回って、列の左側から近づこうとする。

ちょっと待った…!
なんて言うんやっけ。シミュレーションが足りてない。

荷物検査の列が進む。もう時間がない。

「*****っ!」
名前を呼んだと思う。それは彼女が、係の人に搭乗券を見せて通されて、いざ荷物検査のベルトコンベアーに荷物を置こうとする、ほんの手前だった。

彼女はパッと振り返って、目があった。
「あっ、昨日の…!」
「あっ、そうそう!で、えっと…」

なんという、瞬間。こんなんシミュレーションしても無理や。
変な感じになったらあかん。次の一言や。その一言や!
行けるか…!あかんか……?

「っと、ちょっと早く着いてしまって!」
「朝の便?とか、言うてたような気がしたから。もしかしたら、と思って。そしたら、びっくりしたわ。」

そうじゃない。

「あ、そうなんですね!びっくりしました」みたいなことを彼女は言った。

「うんじゃ、気をつけて」みたいなことを、さらっと笑顔で交わし、後ろの人の迷惑にならない程度の間とタイミングで、彼女はレーンに荷物を置いた。

彼女が中に消えてしまった後、僕はバームクーヘンの3階に移動して、その送迎デッキから、飛び立つ飛行機を見送った。

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夏は恋の季節。
ふと思い出して、LINEの連絡先をスクロールしてみたら、ガールズバーからの帰り際に声をかけた、例の明るい子を見つけた。

海模様のアイコンをクリックする。拡大されたそれは、躊躇なく日に焼けた彼女が、波打ち際に両肘をついて寝転がり、笑顔で宮古ブルーに抱かれている写真だった。

僕は宮古島が、大好きだ。

(以上)

よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。