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計画性なき人のためのソナタ 第三章

開場まで残り25分。右手にダンボールの束を、左手に紙コップやら氷やらが詰まったビニール袋を持ち、ドン・キホーテから駆け出した僕は、今や完璧に焦っていた。

20~30メートルぐらい「うおおお」と走って、立ち止まる。違う。何かが違う。そして、自分が戻るべき駐車場の位置を全く覚えていないという事実に気がついた時、ひとつの考えが舞い降りた。

「ドリンク担当、2人必要ちゃう?」

***

どんなに時間に余裕があっても、或いはなくても、勝負はいつも最後の30分になる。悲しい性である。思い返せば、GINZA SIXでの30分が痛かったな、とか。あん時ああしてたらも少し早く出来たな、とか。でも、そんなことはよくある話。いつものこと。

それでも結局最後は、なんだかんだ、なんとかなる。そんな計画性なき人のためのソナタ。最終章です。

ドン・キホーテの大いなる罠

ドン・キホーテ銀座店は、銀座と言いつつ新橋駅前の高速の高架下にある。そしてここには、専用の駐車場がない。ないんかー。ほなしゃーないなーと付近の駐車場を探すと、ちょうどドン・キホーテの土手っ腹の真横にぽかりと口を開けて待っている地下駐車場の入口がある。

それが、東京都東銀座駐車場である。新橋駅前のドン・キホーテの真横に、東京都「東銀座」駐車場の入り口がある。

お気づきかもしれないが、これが魔宮への入り口。つまり罠です。一度そのダンジョンに踏み込むと、ゆるめの傾斜で地底深くにまで沈められた上に、さらにそこそこの水平距離を奥へ奥へと誘われることになる。どこまでいくねーん。言いながら進むことになる。

駐車後、急いで地上に上がれば、見知らぬ景色に包まれる。Google Mapを見ながら高架下まで戻れば無事ドン・キホーテが見つかる。

いざ、ドン・キホーテ入店と同時に2つ目の罠にかかる。ドン・キホーテの魅力である圧倒的な品揃え。それこそが罠である。選択肢のジャングルは、時間があってこそありがたいが、刻一刻と時間制限が迫る中では、探索、決断、実行力の試しの場と化す。

溢れる疑問

・ZIMAはないがどうする。チューハイ系がないぞ。
・紙コップ、プラスチックカップはどこか。何個必要か。
・4kgの業務用の氷は、何個持てそうか。
・会場に設置するゴミ箱の数とサイズはどうするべきか。ゴミ箱の代わりになるものはあるか。ポリ袋は何枚いるか。

じっくり迷っている暇がない。

瞬殺回答(0秒思考)

・ZIMA? 後でコンビニでOK。
・プラカップ、紙コップ? うーん。1人2プラカップで、予備に2紙コップあれば足りるか。
・氷? 4kgは1個が精一杯か。片手やし。
・ゴミ箱の代わりになるもん? わからん。聞いてみよ。
・ポリ袋の枚数? わからん。適当にちょい多め。20-30枚でいいか。

なにせ時間がない。ちなみに、ゴミ箱は売りもんのダンボールを組み立て、ビニール袋を被せることで自作することにした。これは特に誰からも特別の言及なり称賛こそ受けはしなかったが、個人的には一番のクリエイティブ賞だった(最後の片付け時に捨てやすいのがポイント)

お会計をして、キラーのように飛び出すドン・キホーテ。

だったが冒頭の如く、元の駐車場への戻り方がわかない自分に、戸惑いと興醒めを覚え、冷静になるようにと話し掛ける。最終的には、ドン・キホーテの入り口横、魔宮の入り口を再度見つけた。

その地面に書かれた「歩行者立ち入り禁止」の文字。その上を疾走する。我は歩行者に非ず。さまよえる蒼い弾丸である。他の入り口には辿り着ける気がしなかった。

会場到着 17:43頃

18:00開場予定のため、レンタカーの返却期限は17:45にしていた。まずは、会場前の道路に路駐し、お酒・氷・ダンボール・その他を搬入する。

リカーマウンテンからのドリンクはきちんと届けられていて、テーブルに置かれていた。そこに今買ってきたものを、ざざっと広げつつ並べて、一通り揃ったことを確かめる。よっしゃよっしゃ。

車に戻る間際、手の空いている人を見つけて「このダンボールとポリ袋でゴミ箱を作って下さい!」と雑にお願いして飛び出した。

急いで車に戻って、エンジンをかけ………かからない!
車のハンドルも重くて動かない。遠隔制御か。

「利用可能時間を過ぎています。車を安全な場所に停車し、コールセンターにお電話下さい」と機械音声に告げられる。

このクソ忙しい時に…! コールセンターに電話を掛け、カラオケよろしく「15分延長」をお願いする。オペレーターとの本人確認や、延長時のペナルティ料金の説明などを受けてる間に、動けとけたら今頃着いてるわい!と思うけど、多分そういうことではないのだろう。

元のTimesの駐車場に戻るまでに、一方通行がわからず、対向車のタクシー運ちゃんにえらい怒られた。車社会において、一方通行ほど圧倒的な正義をまとえる瞬間はないのかもしれない。ミスはミスやけどそこまで怒るかね、と苦笑いして、戻った。銀座エリアは一通が多いのでご注意あれ。

最後は走り回るだけ

結局のところ、最終的には走るだけ。

会場に戻るまでに、コンビニへ駆け込み、チューハイ系のZIMAとシードルを買い込み、氷を3パック買い足す。お会計の時に、箱を差し出される。買った金額に応じて、クジが引けるらしい。今はちゃうなぁ!と思ったが、一応3枚引いたら、2枚あたった。つ、ついてる。。。

走って会場に到着したのは、18:00ちょうどか、2~3分過ぎた頃か。時間などもう見ていないが、まだお客さんは入ってないようだ。
よかった、ゴミ箱も出来ている。よかった、間に合った。

あとは、このテーブルに買い揃えたドリンクを、ええ感じに並べて、そうそう、お客さんから見やすいようにね。手前からビールがあって、ワインがあって、ZIMAもあります、いいね、いいね。そして、ソフトドリンクは潤沢にあるから、ちょっと広げて並べて、そうそう。

栓抜きがない!!!

再び銀座の街を走り出す。

そんな、計画性なき人のためのソナタ。

Question:銀座で50人程度のイベントのドリンクを担当するのですが、この準備は半日程度で出来ますか?
Answer:なんとでもなりますが、最後は走ります。

(以上)

よくぞここに辿り着き、最後までお読み下さいました。 またどこかでお目にかかれますように。