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《夢》黄色い花の道

夢で、

あの人まで続く黄色い花の道を、めいっぱい着飾って走っていた。

道すがら、行く先を遮るように、老婆がこちらを向いて立っていて、なにかはよく聞こえないけれどとぼけたことばかり言う(しかしほんとうはきっとたいせつなこと)その老婆に苛立ったので、肩を掴んで揺さぶりながら大声で叫んだ。老婆はピタリとまばたきをやめ、人形のようになった。

わたしはまた走り出した。着飾っているものだから、走りづらくて何度も転びそうになる。それでもこの装いを、あの人は「うん、いいね」と言った。遠い昔の駅の改札前で。

その駅というのはとても人の多い大きな駅だったけれど、あの人はとりわけ小さく、それがかわいらしかったのでいつも必ずわたしが先に見つけた。きっとあの人がわたしのことをかわいらしく思った回数よりも、わたしがあの人をかわいらしく思った回数のほうが、多い、きっと。でも回数がたいせつなわけではもちろんないし、同時に回数がなにかをたいせつにさせることもまた、ある。

とにかく走らなければならなかった。黄色い花の道は、気づけばただのアスファルトになっていた。間に合わなくなってしまう、あの人を待たせるなんてできない。わたしのせいで、あの人を待たせるなんて。

とにかく嫌われてはいけないのだった。そういうルールだった。

走りながら、自分の走り方がドタバタと汚く、外股でうんざりした。その途端、天地がひっくり返るほど大きく転んで、前から来たのか、はたまた後ろから来たのかわからなくなってしまった。

黄色い花の道はもう無い。つまり、あの人への道も無い。自分のことばかりに気を取られて、また「うん、いいね」と言われたいただそれだけだったのに、それすらも欲張りだったということだ。黄色い花の道はもう無い。

遠くで、人形のような老婆が、張り付いた笑顔でこちらを見ていた。

あの人は、遠い昔の駅の改札前で待っているのだろうか。

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