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浜じいのおもひで

私が2000年の春に新卒で入った会社は、アップル(当時、アップルジャパン株式会社)でした。現在のグローバルなイメージからは程遠い、いつなくなるかわからないベンチャーだったので、思えばクセのあるというか、アクの強いというか、Think differentな社員が多かったです。

そこに並居るツワモノの中に「浜じい」という営業課長がいました。読む人が読めば誰のことがわかってしまうかもしれませんが、一応仮名。

浜じいは、基本が苦虫を噛み潰したような顔をしていて、踏んだらだめな細いしっぽが何本もあって、うっかり近寄ると「あなたねぇ!」とねっちり怒られるので、若手社員に敬遠されがちでした。

なのに、私は入社3年目に営業部に移動して最初の有給を取るとき、OOO(Out of office)メールの自動返信の設定を間違え「緊急の場合にはこちらに電話してね!」と、よりにもよって、浜じいの携帯電話の番号をドーンと載せてしまったのです。会社貸与の携帯は連番で一桁違っただけだったので。そのうえ、会社のIDを自分の机の上に放ったらかして帰ってしまった。

休みから戻ったら同僚がスッ飛んできて、浜じいがカンカンになってるから早く謝ったほうがいいよ!と教えてくれました。で、「あなた、ねぇ!私への挑戦状ですか?!」と、めっちゃ怒られ、もう、平謝り。まあ、しかしもとい、わざとではないことがわかり、最後は浜じいも少し笑って許してくれた記憶があります。

そんな事件があったにもかかわらず、私は浜じいが嫌いではありませんでした。説教モードではあっても、空気が読めない私のような人間にとっては、不満をちゃんと口に出して具体的に指摘してくれる相手というのはありがたかった。外資系ってね、心に思うことがあっても、どうせずっと一緒にいるわけじゃないから干渉するだけエネルギーが損だとばかりに、何も言わない人も多いのです。

「あなた、ねぇ!目上の人間に向かって"お疲れ様"なんて言うもんじゃありませんよ。つかれは憑かれに通じるのだから良くない言葉ですよ!失礼なっ(怒)」

…と怒って…いや、教えてくれたのも、たしか浜じいです。

言葉とは時代とともに移ろうもので、現在では「お疲れ様です」は社内メールの便利な枕詞としてテンプレ化している組織も多いですけど。そう受け取られることもあるんだなと知ったので、私は、メールの書き出しに別の言葉を駆使して、自然に素早く話題に切り込む術を身につけました。

まあ、そんなわけで、基本は露悪的で、アク抜きに失敗した煮ワラビ的キャラの浜じいだったのですが、ある時、なんでだったかは忘れたけどDVDを貸してくれました。サラ・ブライトマンのPVを。ニコニコして、これいいから、かしてあげるよ!とかって。

「ギャップ」って、人に、物事を考えさせますよね。

最近、私がすっかり虜になっているポケモンでね、毒・悪タイプのゲンガー(技:ヘドロばくだん)というのがいるのだけど、その正体は実はフェアリータイプのピクシー(技:マジカルシャイン)って説があるらしいの。

それに近い、衝撃と納得感が一緒に来る感じ?

カメレオン色のブーメランパンツをはいている浜じいのなかに、そんな感受性があるとは。

あ、なぜ私が浜じいのパンツの色を知っていたかというと、ポリコレなんて言葉のないその時代は、例えばはしゃぎすぎたおじさんが花見でハードリカー使って火を吹いたり、チームのカラオケで脱いだりしても、まーまー、あーあー、って感じで許されていたからです。今、外資系の会社でそれやると即刻クビだけど、まぁ周りのみんなもそれをバカだなあって面白がる、おおらかな時代でした。

今でも、Time to say goodbye の美しい調べを聞くと、私は浜じいを思い出します。

昨日久しぶりに聞いてまた思い出したのですが、なんでか、どうしても、これを書いておかねばならない気になった。浜じい元気かなあ。

それにしても、いやはや、昔のアップルは、実にワイルドな人だらけだった。振り返ってみれば、すごく楽しかったです。

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