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緑、翠、碧

7月。居座る梅雨に展望を奪われ、遠雷に追われてコースタイムの半分で早く駆け上がった北岳の肩の小屋にて。

お昼のうどんを食べていると、小屋のご主人が「今、晴れてきたよ」と教えてくれた。

ビールを片手にテラスに出ると、視界を閉ざしていた白い霧が晴れ、眼下に広がる山陵が眺められた。


頭上を仰ぎ見れば、分厚い灰色雲に抜ける様な青空の裂け目ができて、ぐんぐんとひろがっていく。燦々さんさんと白い太陽が、雲のフチを照らす。

復権した太陽は、重なり合う山々を寿ことほぐように、まばゆい光の帯を贈る。

そしてたちあがる、グリーングリーングリーン

その絵巻物えまきものは、梅雨の終わりで夏の始まり。


「南アルプスは、青と緑がおおらかでいいでしょう?」

居合わせた老登山家が、話しかけてきた。

まるで、自分の誇りの息子を語るかのように。

使える休みを登山につぎこんでいた昔の写真とメモより。当時はこのような一瞬のために、山にのぼっていた。

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