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勇気を出して(おすすめの絵本)

ムーミンの作者、トーベ・ヤンソンの小さい子供向けの絵本に「さみしがりやのクニット」という作品がある。

ムーミンといえば、親しみやすく調整されたアニメ版に馴染みのある人が多いかもしれないけど、トーベ・ヤンソンの魅力は何をおいても、その原作のちょっと不気味な絵柄にあると私は思う。

コアなムーミンファンてわけではないんだけど、個人的には水木しげるの「ゲゲゲの鬼太郎」と同じカテゴリとして、好きなのです。

余談だけど、テレビ版の鬼太郎も、いつの間にやら商業主義に蹂躙され、歪さを剥がしきった別物にされているよね。視覚的に受け入れやすい鬼太郎なんぞ、ゲームオブスローンズのティリオン・ラニスター役をトム・クルーズが演じるようなもんじゃないの。つまり、鬼太郎が鬼太郎たる魅力のカナメが台無しではないかと思うんだけど。

その点、「さみしがりやのクニット」は作者本人の手による絵本で、妖精たちが徘徊する深い森の寒さとか薄暗さとか、白夜的な世界観をそのままに、子供の成長を助ける優しいメッセージがしっかりこめられている。

ムーミンは出てこないけど、スナフキンやニョロニョロなんかの、おなじみの仲間たちが登場する。

クニットは一人ぼっちの男の子。周りに誰も手をとって世界とのかかわりかたを教え励ましてくれる人がいないので、楽しげな世界にいても、常に透明人間のように疎外されている。自分から一歩踏み込めばいいのだが、その発想がない。小さい子供の原型的なシャイネスそのまま。

しかし、彼は変わる。モーランに怯える小さな女の子の「助けて」の手紙を読んで、誰の介助がなくても自分で心を決め、自分で勇気をだして、彼女を救うために窮屈な靴と重い鞄を手放して世界に踏み出す。厳密には、鞄は海を渡る船にしちゃうのだが。

そして、モーランといえば、登場人物全員オバケのムーミン世界のなかで、いちばんオバケらしいオバケだ。大人になって思えば「冬」の象徴。フィンランドの冬は日本人の私が思う「冬」よりもずっと重く暗く冷たく容赦のないものなんだろう。そのイメージを、どんな言葉よりも直截に伝えてくれるその不気味な造形ったら!(最高!!)

私は自分が子供のとき、そのモーランの絵が本気で怖かった。ヨーヨー(5歳)も同じで、そのページに差し掛かるとパッと立ち上がって大人の背後にきゅっと隠れる。でも読んでほしいから首をのばして見ていて、次のページになったら定位置にもどる。かわいいったら。

でもクニットが勇敢にそのしっぽに噛み付いたら、モーランはギャッといって逃げちゃうのです。案外弱い!

そして、世界が変わる。

クニットは、寂しくなくなる。自分の力で。

明るい世界にいながらも一人だけ光の浴び方がわからず影で立ちすくむのは、実は子供であるとは限らない。

明るい世界の一部になりたければ、その世界を自ら迎えに行けばよい。その一歩を踏み出せばあとはうまくいくよ。勇気をだして。

そういう絵本である。

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