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浮世絵の絵具ー雲母

歌川国芳「讃岐院眷属をして為朝をすくふ図」の復刻において、雲母が必要になり、この機会に自分で作ってみることにしました。最初はネットで国産天然雲母を購入しようと思い、探してみましたが思うように見つからず、実際に採掘に行くことにしました。参考にしたのが下記です。

「浮世絵草子第一巻六号」高見澤木版社1946年、の文中「雲母摺の写楽は阿波産を使ったかと思いのほか、原画をよく見れば明らかに三河雲母であって、〜徳川中期の絵具屋で自慢して売っていた雲母は三河雲母である。」

「実業応用絵具染料考」竹内久兵衛1887年 文中「三河國吉良赤坂黒瀬等の諸山より産ず方今は常陸地方より産出するものを賞用するに至れり」

またネット上で見つけた「岡崎まちものがたり 羽角山雲母の採掘」https://www.mutsumi-nanbu.com/app/download/7203837059/B-05%20%E7%BE%BD%E8%A7%92%E5%B1%B1%E9%9B%B2%E6%AF%8D%E3%81%AE%E6%8E%A1%E6%8E%98.pdf?t=1583365318 

の文中において、愛知県の西尾市から岡崎市の山々にかけて、雲母の採掘が古くから行われていたとあり、特に文中「〜「和漢三才図会」寺島良安編1712年には三河の雲母山(八ツ面山)で良質の雲母が多量に産出することが記述されている。〜」と記されています。

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八ツ面山 

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八ツ面山は高く険しい山ではありません。男山と女山からなります。古くから雲母の採掘が盛んに行われましたが、明治になり価格下落により廃業者が増え、1900年(明治33年)に起きた落盤事故により採掘が中止、1931年には放置された廃坑で、子供が転落死する事故が起きたことにより、一基を残し全ての坑道は埋められたそうです。

実際に行ってみると、山に入ってすぐの山道で雲母は普通に見つかりましたが、雲母は柔らかく剥離しやすいので、そうそう大きな塊は、地表で普通には見つかりませんでした。往時は、3メートル以上の坑道を岩脈まで掘り下げ、採掘されていたそうです。

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比較的良質だったもの

前述の「浮世絵草子第一巻六号」には、「三河の苫郡吉良の庄より五色をだす、其内白色の者を多く出す。黒色なる者を方言しにきららと云て下品とす」とあり、別文献には黒雲母は変質しやすく、金雲母となり、白・黒(金)雲母以外にも紅・緑・絹雲母等があると書かれています。今回はこの内白雲母以外に、黒(金)雲母と思われるものも見つける事が出来ました。

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黒(金)雲母と思われるもの


帰宅後、持ち帰ったこれらをまずは軽く水洗いし、、

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乳鉢で粉砕

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乳鉢に水を注ぐと、水面に細かい雲母の粒子が浮くので、その上澄み水をすくって漏斗上の濾紙に回収していきます。

上澄みを取り終えたら、底に溜まって いる粒子を再度乳棒ですり潰し、水を注ぎ、同じ作業を何度も繰り返します。

最初は細かい泥が混ざることがありますが、その場合の上澄みは捨てるようにしました。

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この写真のように、他の鉱物中に雲母が散在してるケースもありますが、こういったものは雲母と不純物との分離が難しく、使用は困難だと思いました。

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乾燥後(白雲母から作ったもの)

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乾燥後(黒雲母から作ったもの)

尚今回ここで紹介してる精製方法は、ほぼ我流で、実際の確かな方法についてはまだ掴めていません。

浮世絵における雲母の使用法は3通りあります、1絵具・膠(又は糊)・雲母を混ぜて、通常色を摺るときのように版木上で摺る。2先ずは版木で膠(又は糊)だけを摺り、次に紙面上で該当部分に直接雲母を篩かける。その後余分な雲母を羽箒等で払い落とす。下地に色が入る場合は事前に摺ります。3版木は使わず、絵具・雲母・膠(又は糊)を混ぜたものを直接刷毛で紙面に塗る。塗ってはいけない部分は型紙で覆う。この場合、基本的には紙端の余白は出来ません。

尚やり方に関して、概要は変わりませんが、細かい所は摺師それぞれで違います。

写楽や歌麿の大首絵の広い背面に用いられるのは2か3の方法で、広重の名所江戸百景などのぼかし部分等には1の方法が用いられます。1の方法はぼかしなどにも使え又手間も少ないですが、2や3に比べ雲母の光沢は出にくくなります。

復刻版においては、写楽や歌麿の大首絵の背面に2と3のどちらを用いるかは、版元によって異なります。オリジナルにおいては、3の方法が取られているように見受けられますが、「錦絵の彫と摺」石井研堂 初版1929年 には写楽・歌麿の絵などにある雲母の方法としては、2の方法が説明されています。尚同著には3の方法は紹介されていません。

雲母など自分で作らなくても、画材屋にある市販品で良いだろうと、ほとんどの方は考えると思いますが、市販のものは均質的で精製がされ過ぎてるように思うのと、それ以前に、素材や製作工程を確認しながら、絵具を自分で作り出していくということが、作品の放つオーラであり、復元作品としてのリアリティーにつながると考えています。



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