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歌川広重「六十余州名所図会 阿波 鳴戸の風波」復刻のお知らせ。(現状再現的復刻)

フランスにある和物雑貨店「Cool Japan」さんとの企画で復刻版を制作したので、今回はその制作について紹介します。
復刻した作品は歌川広重の「六十余州名所図会 阿波 鳴戸の風波」です。

①コンセプト
今回の復刻は私がこれまで紹介して来たものとは全くコンセプトが異なり、「現状再現」となります。「現状再現」とは「現存状態を含め再現する」という意味で、経年劣化や古びを含め再現することを意味します。特に今回の制作では「保存状態良好なオリジナル作品」を想定して再現しました。

②原画について
原画は画集の中から摺りの早いものを選び参照にしました。摺りが早いとは初摺り乃至それに近いものという意味で、彫線の摩滅具合や色版数の多さなどによって判断します。後摺りほど彫線が摩滅して柔らかくなっていたり崩れたり、又、色版数が省略されたりする傾向にあります。
(尚、基本的に浮世絵に著作権はありませんが、浮世絵の画集等を作るにあたっての撮影手法や編集などの如何によっては、その人達の著作権が発生します。浮世絵の画集には「複製禁止」の旨が記されているものもありますが、そういったものは使用しないようにしています。
ただ所蔵先によっては、過去に画集を出版した当時は複製禁止の意向を表明してなくても、現在においては表明し、過去の画集からの複製に対し申請の届出を要請してる所もあると思うので、注意が必要です。)

私は今回の原画のオリジナル作品に直接触れた経験はありませんが、同じシリーズ中の「遠江」のオリジナル作品(保存状態良好の後摺り)を所有していたので、紙の質感や経年劣化の程度はそれを参考としました。

③素材について
版木は通常は山桜と決まっていますが、今回は予算の関係から、山桜よりも柔らかい朴の版木とシナベニヤの版木を用いました。

紙は一般に市販されている和紙の中から、なるべく安手でそれっぽいものを選んで用いました。その際、特に紙の薄さに注意しました。
一般的に江戸時代のオリジナル作品は復刻版作品とは違って薄い紙が使われていることが多いです。今回参考とした前述の「遠江」も、普通に持つのが困難なほどの薄さの紙でした。今回の復刻にはそのような紙を選びました。

絵の具は摺師間で復刻の際に一般的に用いられるような現代の化学顔料を使いました。

④彫り摺りについて
特に気をつけたのは、現代の職人の感覚や技術水準で綺麗に仕上げるということはせず、あくまで原画当時の技術水準に合わせるということです。現代の彫師・摺師による復刻では原画上の技術的ミスは修整されることが多く、また原画よりも綺麗に作らんとされることが一般的です。しかしこれまで作られてきた復刻版を振り返って見ると、そういった技術水準の高度化や洗練化が、江戸時代の浮世絵と復刻版の印象を違うものならしめている主な要因の一つと思われます。江戸時代の浮世絵は薄利多売式に早いスピードの中で、親方から弟子までが総出で制作に携わっていたこと、及び彫師摺師の技術が明治時代以降、格段に発達したことなどを思うと、いわゆる初摺と言われるような当時としては丁寧に作られている作品でも、よく見れば雑な箇所があるものだと思われます。そしてそういったことが江戸時代の浮世絵の技術の特徴ではないかと思われます。(その他の要因として、経年劣化の差と絵の具や紙の素材の差があると思われます。そして経年劣化をかなり経た古い復刻版でも、「これは復刻版だ。」と判別がつくケースは多いため、経年劣化の差は二義的要因で、第一の要因は素材の違いと技術水準の違いにあると思っています。)

今回の復刻は原画上に見られる技術的ミスも鑑賞上余程の支障が無い限りは、出来るだけ再現するように努めました。
ただ私の技量の問題で思うように行かなかったところはあり、また特に彫りについては前述のように柔らかい版木を使っていることもあり、あまり細かい所まで原画の線は追えませんでした。

⑤制作を終えて
完成した作品を知人の浮世絵商の方に見てもらったところ、「赤の色、紙の硬さ、色の硬さがオリジナルとは感じが違う、だけど一瞬はオリジナルかと思ったし、一般の人が見てもオリジナルか復刻版かわからないだろうと思う。」という評でした。

今回の作品は33部限定で、Cool Japanさんのみでの取り扱いになります。
今回は贋作としての流用防止のため、作品下部の余白を広めに取りそこにサインを入れています。

今回の作品は経年加工を施しています。
「保存状態良好」と言えるオリジナル作品と同程度の汚れや傷みは付けられていますので、もしご購入の際は、そのことを予めご了承下さい。

ご注文お問い合わせ先 https://www.cool-japan.fr/

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