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旅の記憶

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ラダックでのヒッチハイク

あの日、僕は、ラダックの大地を小さな原付バイクに跨がって進んでいました。 ***** ラダックとは、インド北部に位置する地域のことです。 そこは、ヒマラヤ山脈とカラコルム山脈に囲まれた高山地帯で、この地に暮らす多くの人はチベット仏教徒です。 チベット文化が息づき、チベット増院や仏像が古いまま残っています。 ***** 僕は「レー(Leh)」という街に数日間滞在しました。 その日は、ラダックの環境に慣れてきたこともあり、小さな原付バイクを借りて、1人でチベット僧院

麗江を流れる雪解け水

中国の雲南省。標高2400mの地に、ナシ族が暮らす古都「麗江」がある。 この街を見下ろすのは、5000m級の霊峰「玉龍雪山(ぎょくりゅうせつざん)」。 その名の通り、山の稜線は龍のようにうねっていて、龍の背には白くて美しい雪が積もっている。 玉龍雪山の雪解け水は、大地に染み込み、清らかな湧き水となってこの街に注がれる。 麗江の街には、「水路」がまるで迷路のように隅々まで張り巡らされていて、水路を流れる雪解け水がナシ族の暮らしを潤してきた。 水路に並行するのは、石畳の

色節の島「粟島」への想い

「旅する日本語展2020」に応募した「色節の島」。なんと、「最優秀賞(小山薫堂賞)」をいただきました! 想像だにしない出来事に、驚きと戸惑いを隠せませんが・・・。素直にうれしいです! 読んでいただいた皆様、旅する日本語展の関係者様、note編集部の皆々様をはじめ、関係する全ての方々に厚く御礼を申し上げます。どうもありがとうございます! 「色節の島」の余白を埋めるようで、こういうことを書くべきかどうか迷いましたが、振り返りを書いてみたいと思います。 ***** 「旅する

ミャンマーでケマウジーという男に出会った。

ミャンマーのバガン。 ここは、広大な平原に大小3000もの仏塔が建ち並ぶ、仏教遺跡の街。 当時、大学生だった僕は、ゲストハウスで借りた頼りないチャリンコで、バガンの遺跡巡りをしていた。 ***** 道は、舗装されておらず、砂の道だった。 日差しは強く、暑かった。 エンジン音を轟かせた自動車が通り過ぎると、砂が舞い上がり、暑くてほこりっぽい風が、僕の髪の毛をバリバリにした。 草木は生えているが点在していて、道に日陰をつくることなく、大地の熱気が、僕の全身を汗まみれ

祈り

目を閉じると、心に浮かぶ景色がある。 平成から令和へ。 時代が変わったまさにその日。 北海道の利尻島は、日本晴れだった。 霊峰「利尻富士」を眺めながら、島を一周し、 最後に辿り着いた場所が「姫沼」だった。 針葉樹が生い茂る森の中、 あゆみを進め、視界が開けた先に「姫沼」はある。 沼のほとりに踏み入ると、空気は凜と澄みわたり、風は止み、音は消えた。 水面(みなも)は、穏やかで、鏡のように美しい。 見上げれば、荘厳にそびえ、迫り来たる「利尻富士」。 眼下には

色節の島

人で賑わう5月のフェリー。 デッキの手すりにもたれ、清々しい海の風を頬で受ける。 海は凪。空も凪。 麗らかな日差しが水平線に降り注ぎ、光はさざなみに反射して無数に輝く。 浮き立つ気持ちと裏腹に、目指す島は、ゆっくりと近づいてくる。 新緑に萌える山は笑っていた。 乗客が皆、一斉に手を振る。 「ただいま」の人も、「おじゃまします」の人も。 手を振る先は、高らかに「大漁旗」を掲げた漁船の大集団。 島民総出の出迎えは、フェリーに併走する色鮮やかな漁船群。 風の光に

サンパウロの雨

ブラジルのサンパウロで泊まった安宿は、玄関の扉が二重になっていた。 普通の扉と、鉄格子の扉。 僕は鉄格子の扉の存在に、どこかこの街の治安の悪さを感じていた。 ***** 大学生のとき、南米を1人で旅した。 夜行バスの長距離移動を終え、サンパウロのこの宿に辿りついたときには、既に正午になっていた。 僕にあてがわれた部屋は、カーテンがボロボロの薄暗い簡素な小部屋だった。それでも値段を考えれば充分すぎた。 長旅の気だるさを拭おうと、シャワーを浴びた。僕はいつもそうする

チチカカ湖上でのハッピーバースデー

南米のアンデス山脈。ペルーとボリビアの国境にチチカカ湖はあります。 チチカカ湖は、標高3800mほどの高地にあります。つまり、そこは富士山の山頂よりも高い場所です。 そのせいか、空が近くて、とにかく青い。湖も穏やかで、とにかく青い。青、青、青。 遠くに見える山の緑と、アンデスの人々が住む家のレンガ色を除けば、とにかく青い絶景が、視界いっぱいに広がります。 ***** 僕は、小さな船に乗って、この青い湖を進んでいました。 目指すところは「太陽の島」。湖上に浮かぶ聖な

ダライ・ラマ法王に会いに行った話

そうです。ダライ・ラマ14世。ノーベル平和賞を受賞したあの御方でございます。僕がダライ・ラマ法王に会いに行ったのは、かなり昔の話でありますが。 ***** きっかけは、大学生のときの1人旅です。当時の僕は、ひたすら遠くへ行きたくて、気がついたら、チベットの古都「ラサ」にたどり着いておりました。 ラサには、「ポタラ宮」という歴代ダライ・ラマが住んでいた宮殿があります。その宮殿の圧倒的な迫力、美しさ、荘厳な佇まいに、僕は心を奪われまして、それ以降、チベットの歴史や文化に興味