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そんなことよりさ


私のデスクの横に置いてあるでっかいホワイトボードに、部署全体の提出物を取りまとめるクリアファイルを貼っつけている。と言っても、乱雑に貼られる他のいろんな紙に隠れて、ほぼ使われていない。
この間、久々にホワイトボードを整理したら、そのクリアファイルの中でハエが一匹死んでいるのを見つけて、
「ね、こんなとこでハエが死んでる」
って、目の前のデスクの後輩に言った。
「あ、ほんとすね」
「透明なのにどっからも出れなくてテンパったりしたのかな」
「あー、窓の内側でずっと外に向かってアタックしてるハエとかいますよね」
「ね、そういう感じ」
「えー、なんかめでたいっすね」
「は?」
「なんか、めでたくないですか?これ」
「なんで?」
「いや、クリアファイルの中で、ハエ死んでて、その感じが」
「めでたい?」
「めでたいっす」
「なんで?」

上司に呼ばれて後輩は席を離れ、私と、クリアファイルの中のハエの死骸だけが残る。
めでたい?めでたいとは、目出度い、おめでたい、㊗️、という、ことだろうか。それとも、愛でたいくらいハエが好き?いや、逆に虫が嫌いすぎて、すべての虫の死を祝福してしまうということ?
すぐに後輩が戻ってくる。

「ねえ、めでたいってなんで?」
「めでたいと思います。俺は。てかまだその話続けるんすか?めでたいは、めでたいってことですよ。仕事しましょうよ、そんなことより」

なんなんだよ。
ハエは、私がティッシュに包んでさようならした。

なんなんだよ。


この一時間後、無言で仕事をし続けていた後輩が急にぱっと顔を上げて
「今日、○○(後輩の女の子)と飲みに行くんすよね?俺知ってますよ」
「なんで?あんたにってか誰にも言ってないけど」
「うきさんの行動なら全部わかるんで」
つってきて心底キモかったけど、目の前のコイツとその日飲みに行く後輩の女の子が少し前まで付き合っててもう別れたけど「俺/私は別れた相手と女々しく連絡を取り合ったりするような人間じゃありません」と双方頑なに否定しつつも未だにガッチリ連絡を取りあっていることを知っていたし、その女の子が私と飲みに行くたびに後輩にこっそり「帰り迎えにきてほしいな」と頼んでいることを知っているし、なんなら前の飲み会の帰りにたまたま通りすがったみたいな感じで車で拾われて私だけ先に降ろされたけど絶対迎えにきてたのが空気でわかった、頑なに隠すわりに匂わせて来ないでよ、知らないフリすんのきつい、あと「知ってますよ」の言い方も非常にキモい、本当に。まあ、キモイけど、まあ、いいけど………と思った。


そんなことよりハエだよ。めでたいって何?もっと私にわかるように言ってよ。よくわからん匂わせされるより面白そうなのに。
ねえ。ねえ〜〜〜



そんなことより    終

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