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【映画感想】私は確かにその瞬間、教室にいた。"14歳の栞"

巷で話題の映画、14歳の栞を見てきた。巷で話題程度の評判だとそもそも上映している映画館が少ないし、そういう映画館ってだいたいボロいし、遠いし、大人料金¥1900するし、巷と意見が合わずにクッソつまらなかったりするし…で基本は配信を待つのだが、どうも配信もDVD化の予定もないとのことで久しぶりに池袋シネマロサまで足を運んだ。

感想

この感想はたいへん言葉にし難い。
まず感動作品ではない。懐かしさに涙しました…という感想が多いが、それはスクリーンを挟んで自分の記憶を見ていたわけで、作品そのものは普通の中学生たちの日常が切り取られていただけだった。つまり泣く要素は全くないはずなのである。
しかし実はこの私もあの約2時間、スクリーンに映るクラスの中に自分を投影して懐かしんでいた1人である。つまり涙したわけである。

無機質なチャイム、汗臭く騒がしい教室、担任が乱暴に扉を開ける、名残惜しく各々席に戻る足音、椅子が傷だらけの床をさらに引っ掻く、塩反応な朝の会、惰性的な起立、背筋を伸ばさない気をつけ、そのままの勢いで椅子に座ろうとする礼。
その音が、中学校の音だけに囲まれる映画館。何度も言わせてもらうが、映画は映像作品ではなく空間作品なのだ。純粋に"学校"に包まれたのはほんと何年振りだろう。あの頃の匂いまで錯覚するような空間では忘れてた記憶も忘れたままにしたかった記憶も掘り起こされてしまう。何度小さくため息をついたか分からない。別に大人になった自分に辟易としているわけではないが、あの頃よりも成長したし強くなったが、大人になるまでに何を捨てて、何を忘れてきたんだろうな。そんなつまらないことを静かに考えていた。

けしてこの映画は青春映画ではない。危惧していたことの一つに「中学サイコー!青春サイコー!」がテーマになってるのではないかがあった。
学生時代の記憶を黒歴史として抱えてる人、そもそも歴史として残したくない人も沢山いるだろう。その人たちにマウントを取るような青々しい映画になっていたら、ドキュメンタリーと銘打つのは暴力だと思っていた。
しかし映し出されたのは確かに14歳の姿だった。各々が抱える世界観が明確になってくる年頃。性別も性格も違う。体型も学力も嗜好も違う。好きなことも、好きな人も違う。家族構成も世帯収入も価値観も全てが異なる人たちがただ"同い年"で括られて、生活が始まる。混沌なのだ、青春は。

今回取材された中学生たちが羨ましい。あの映画を通して彼らは過去の自分と何度も対話をすることができるだろう。私は14歳の頃何を考えていたんだろう。思い出そうとしても微塵も浮かんでこない。記憶は辿れるが思考はどこにも残ってない。
根本的な部分は変わってないから、たぶんこんなことを言ってたはずだ。

「つまんない大人にはなりたくない」

14歳の私が今の私を見たらきっと悲観で満ちた眼差しを向けるだろう。だがこちらにも言い分がある。

「確かに26歳の自分は自慢できる大人ではないかもしれないが、そもそも君が言う"つまんない大人"の定義を教えてほしい。そこが曖昧だから解釈の幅はかなり柔軟に……」

揚げ足を取りながら言い逃れをする大人になってしまいました。
すまぬ、中学生の頃の自分。

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