「幽霊失格」


ひさしぶり、
今夜 挨拶のためだけに
そんなことを言うひとがいて
ぼくらがかつて数年かけて掘った穴は
季節のかわりめに埋もれてしまったよ
そこに種のひとつでもあればいいが
汚い色の芽でも吹けばいいが

なんとなくをつなぐたび
遠い夜明けにクレジットの明滅
ずいぶんお変わりあそばして
今もまだ席を立てないでいるのかい
この気持ちは絶望には荷が重い

赦されるために武器を取ること
きっと、きみにもあったろう
ぼくにはあるよ

血の行き先をたどって出口はないと気づく
傷つくよりずっと安心して、これでまた夜は致死量
地図からはぐれたふりで両腕をかきいだく
うすべったい一本のペンがふるえる、ふるえる
そこへ付随する意味に ぜんぶ 違う名前をつけてやる

足跡に頼るな
足音を響かせろ

ひさしぶり、
まだすこし殺したりない顔をしたわたしが
限りなくひらかれた現実に手をかける
火のついた五十音の切れっぱしに恋をして
51歳で死ねなかったあなたを重ねてゆく
そこに種のひとつでもあればいいが
ひからびた花でも咲けばいいが

しらじら明けにクレジットは影かたちもなく
これじゃ、幽霊失格だろう
両隣からきみのにおいが消えても
今もまだ席を立てないでいるのかい
ぼくには、あるよ
そこに種のひとつでもあればいいが
あたためたぶんだけ種は種のままがいい

ばかだなあ、
ひさしぶりに聞いた声が
裏返しようもないほど
うつくしく走っていった


 

 

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