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"choir"voice.12「あしをもつおばけ」

"choir"voice.12「あしをもつおばけ」
act:にしかた(続きはらいせ) / 内藤重人 / いとまとあやこ / 葉隠お宮

タイトルは、いとまとあやこの名曲「おばけこわい」、
そして続きは「来世」、お宮さんの我流「念仏」、など、
気がついたらなんかすごいお盆っぽいラインナップになったので、
「人間は考える葦である」とかけて。

幽霊の正体は枯れ尾花だったのかどうか、
というと、すごかった。
これまで何百、千何本とブッキングしてきたけれど、
ツーマンやレコ発、ツアーファイナルはまた別枠として、
金曜の4組でのイベントで、これだけK点超えした夜はほぼ記憶にない。
ほんのちょっとバランスが狂っただけで変わってしまう温度や速度や空気感、
最初から最後まで通底してめちゃくちゃ演者とお客さんがピカピカしてた。

◆葉隠お宮
まこちん(VOXオーナー/店長)から激賞されて、
音源を聴いたら「あやー!ぺっこかっこいいでねが」と、
わりとパッション95%でオファーしたけれど、
端的に言ってすばらしかった。

エレキギター、サンプラー、そして本人も言っていたように、
HIPHOPなのかポエトリーなのかは受け手に委ねるスタイル。
ただ、こういう(ガワだけ)のはこれまで何組も観てきて、
「まあそうなりますよね」という感想しか抱けなかったのだけど、
(なぜかというとクオリティが低い、志が低い、など)
お宮さんはバッチバチに突き抜けていた。
ダイヤモンドよりも光る路傍の石だ。
楽曲や演奏のクオリティも耳をよろこばせてくれるし、
なによりことばのデリバリーにおける突き抜け方がすごい。

ツーカーの仲たるPAとっくんは「声大きいっすよ」って言ってたけど、
これは物理的な声が大きいとかではなく、
意味、文脈ふくめちゃんと通るからこそ意味がある。
ライブは初見だったけど、「karesansui」ってバンドもやってて、
かつ「日本」という曲で「菊一文字」「青竹」「つつじの蜜」など、
リリックの踏み方、落としどころもすごく、いやあ、いそうでここまではおらんわ、と。
見た目の貫禄と比して実際はまだ30代突入したばかり。
どんだけでも青竹のように伸びていくとおもう。
すごいものを視させてもらいました。
ありがとう。

あと、VOXのししゃも奉行に任命しました。
(ライブ告知と同等以上にししゃものおいしさを宣伝してくれる。実際食べてたし)

◆にしかた(続きはらいせ)
板の下では、声、めっちゃ小さいの。
ウィスパーというか、むかしのフレンチポップスくらい。
ところがどっこい、板に上がれば場と空気をとことん支配する、
「なんのスタンド持ちなんですか?」ってギャップがすごい。
音楽性はちょっとちがうけど、それでも世界が続くならのしのくんとか、
ツナ缶の油を喉に流し込む前の尾崎世界観とか、
アサトアキラとか、わたなべよしくにとか、そういう落差といいフリーフォール感。

とにかく詩がいい。
パンチラインの連打すぎて、1曲のなかでひとつひとつが、
いい意味で目立たない、「あの”~~”ってサビの曲」みたいな覚え方を耳がしない。
ただ、豊潤、というとまたすこしちがうのかもしれない。
そこにある欠落や喪失がとてもいい血のにおいをまとって、
けして虚飾じゃない日常の延長線上に「これ」がある、ってはっきり語感や五感以外のどこかで伝わるかんじ。
あとギターがもう、巧い下手ではなく、
ああ、これは野球でいうなら変則右腕(左腕ではない)だ、って。
わかりづらい喩えでごめんなさい。

ソロとバンドの曲それぞれあわせ計6曲やってくれたけど、
一生友だちになりたいミュージシャンだ。
これはぼくが死ぬまで聴き続けたい、と心底おもった。
18歳で音楽をはじめ、27歳でバンドを組んで、まだ4年。
いつ突発的ドラフトが起きても、おれ、ぜったい、上位指名。てか1位。
もう、すぐまた観たい。今夜にでも。

◆内藤重人
重人さん、たぶんはじめて観たのは(いろんな形態ではあれ)十数年前だけど、
そこから20回弱くらいは対バンやブッキングで観てて、
もちろんだいすきだから招聘してるんだけど、
この夜、べらぼうにすごかった。
客席でぼくはある意味のっぺらぼうになってた。

平熱の情熱。
ひとひらの祈りのような、持ちおもりのする。
本人も「めちゃくちゃになりたい」ってMCで言ってたけど、
折紙みたいにうつくしく折りたたまれていって、
どこかちょっとはみ出してるところが実はいちばんグッとくる。

ヴァネッサ・カールトンがもしドのつくほどの文学少女なら、
きっとこんなふうに鍵盤と綴るんだろう、とか、
ビル・エヴァンスが谷川俊太郎とセッションしたら、
きっとこんな景色が見えるんだろう、とか、
30分間、よしなしごとをいっぱい考えた。
セットリストも完璧だったし、
特に海をうたった新曲~「シソーラス」以降の中終盤の流れが、
こんなにうつくしい(二度目)表現は高木正勝兄さん以来くらい、
ほんとうひさびさ生で浴びたな、とおもった。

重人さん、ぼくはあなたのことが、とても、とても、すきです。
畏敬の念をあらたにしました。
またガンガン組ませてください。最高です。

◆いとまとあやこ
もともと、バンドで名古屋にいくたび、
club rock'n' rollでは「choriきたらいとまとあやこ」なのかどうか、
本田さんの好み(?)により対バンしまくったところから、これまた十数年のつきあい。
ここ数年はKINEMASとかいろいろ別方面で関西でもお馴染みの2人組。
タイトルを掬ってくれて1曲目は「おばけこわい」。
これこそ十数年聴き続けてるけど、もう、別世界すぎた。

今回は、元バンドメンバー村島洋一(余類/Bar漾々)から、
「こないだ、いとまとあやこと久々共演したんやけど、ガチやばすぎた」という、
何の気なしな雑談で情報をもらってこの夜に呼ばせてもらって、
いや、マジで、洋ちゃん、ありがとう!!と欣喜雀躍した。
もちろんむかしからオリジナリティもクオリティも、
ぼくがそもそも名古屋勢のことだいすきということを差っ引いても際立つデュオだけど、
大気圏への突入の仕方がかっけえな!から、
あ、もう1秒目から宇宙にいてはるぅ……になっていた。

あやこさんは「アンコールくるとおもってセット組んでたのにぃ」と言ってたけど、
これはブッカーとして言わせてください。
「すばらしすぎて30分”が”充分でした」(”で”ではない)
無論、そこまでの3組からの流れすばらしかったから、もあるけど、
詩人の語彙を旅に出すくらい最高だったよ、いとまとあやこ。

とくに、ラストの「曼珠沙華」はなんというか、
反則級の名曲で、これで今夜が終わるのがいいなって、
きっとみんながおもったんじゃないかなあ。

とにかく最高でした。
ブッカー、長いことやってるけど、
こんなに全員が想像の斜め上をすごい角度で超えてきて、
かつ、それが1+1+1+2じゃなくって、
もうあらかじめ決まっていたすてきな夜のようなこと、
ほんとに、ほんとに、なかなかなさすぎるよ。
衷心からありがとうございました。
演者たちと、お客さんたち(後ろから見てたけど笑顔になるくらいみんなめっちゃノリよかった)のおかげです。

また会いましょう。
ライブハウスには、板の上には、ドラマが生れるよ。



  

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