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【150】奇跡のブルックナー:レミ・バローさんの8番のリハーサルの動画が有った 2023.6.15 

1 レミ・バローさんのブルックナー8番のリハーサル動画が有った!!!

 レミバローさんの奇蹟のブルックナー8番の演奏については下の記事で書きました。

 この記事を書いた時は、バローさんの演奏をユーチューブでは見つけることができなかったため、実際にその演奏を紹介することはできませんでした。
 それをついに見つけてしまったのです。
 2014年8月、ザンクトフロリアンでのあの奇跡の8番の時の第3楽章のリハーサル風景です。
 わずか5分17秒の映像ですが、千万言を語るより、まずは聴いて見てください。

2 ザンクトフロリアン2014年の夏

 動画を見た方にはもう言葉はいらないと思うのですが、このアダージョは、なんて美しく生命力に溢れていることでしょう。
 リハーサルということでラフな服装のバローさんを囲む楽団員は信じられないような話なのですがザンクトフロリアンの周辺のオーバーエスターライヒ地方に住む平均年齢17歳の青少年オーケストラだということで、確かに若いです。
 若いというより幼いと言った方がよい位で、しかも驚いたのは映っている奏者のほとんど全員が女の子であることでした。映っていない金管等には男の子もいるのかわかりませんが、この非力というしかない少年少女たちがこの大曲を演奏しきってしまったことには改めて驚きを抑えられませんでした。
 リハーサルの様子は、もうこれは最終段階なのでしょうね。細かい指示を与える必要もなくバローさんは時に笑顔を浮かべながら途中で止めることなく通しで指揮をしています。
 その演奏は単にそろっているというより、楽団員の心が一つになっていると感じられます。指揮者を全面的に信頼し、一人一人がブルックナーの音楽を敬愛し理解し自発的な演奏をし、それが溶け合っているというように感じられるのです。 

 ザンクトフロリアンの大聖堂に8番第3楽章アダージョの旋律が響き、満たされ、消えていく
 ひと夏、こんな奇跡の演奏に参加し体験できたことを楽員の皆さんはきっと一生忘れないのでしょうね。
 あれから9年が経ち、彼女、彼たちは平均26歳になっているはず、今皆はどうしているのでしょう?
 バローさんは元記事を確認できなかったのですがザンクトフロリアンのブルックナー音楽祭に確か2012年に初登場(この年34歳)しています。そしてその時の指揮が好評だったからか、次の年2013年に3番、2014年にこの8番と以後毎年1曲ずつ演奏しCD化していくことになって現在に至っています。
 2013年の3番はCD化されていますが、この時のオケはユースではなく大人のオケが起用されていました。

 *バローさんが8番というブルックナー最大の大曲になぜユースのオケで臨もうと思ったのか?
 *このユースのオケのメンバーはどうやって選ばれたのか?
 *彼女彼等はどのくらいの間、どのような練習をして仕上げていったのか?
 *演奏をしているとき、演奏が終わったとき奏者たちは何を思ったのか? 
 *9年後の今彼女彼等は何をしているのか? 
 *この演奏会が彼等にもたらしたものは何だったのか?

 知りたいことが沢山あり興味はつきません。
 「ユースオーケストラの2014年の夏」についてのドキュメンタリー映画をつくったら面白いだろうなって思います。

3 「いま死んでも悔いはない」と言わしめた演奏

 いうまでもありませんが、ユースだからいいと言っているのではありません。前回の記事でも書きましたが、ユースでありながら、欧州の高名な批評家が「若き演奏家たちは奏楽天使のごとくに音楽を作り、突如天国の扉が開いた思い・・・いま死んでも悔いはない、と思った」と言ったという、実際CDを聴いてそれが心から納得できる、それほどに素晴らしい演奏をしたことに驚くのです。

4 もう一つのバロー&オーバーエスターライヒ青少年交響楽団による交響曲第8番について 奇蹟はなぜ起きたのか?:残響を前提とした音楽!

 バローさんの演奏を色々探していたら、下のものが出てきました。
 バローさんとオーバーエスターライヒ青少年交響楽団によるブルックナー交響曲第8番の第4楽章全曲です。ただし動画ではありません。

 タイトル写真を見ると少女たちが写っており、最初はザンクトフロリアンのブルックナー音楽祭の録音かと思ったのですが、聴いてみると何か違うのです。
 説明をよくよく見ると、バローさんとオーバーエスターライヒ青少年交響楽団による演奏であることは間違いないのですが、これは次の年2015年の5月にウィーンのORFラジオ文化大放送ホールで行われたライブ録音なのでした。
 多分、夏のコンサートの演奏が高い評価を受けたので、同じコンビでウィーンに呼ばれ音楽会が開かれることになったのではないかと思うのです。

 この2015年の第4楽章の演奏時間は31分12秒であり、2014年の32分46秒からわずかに短くなっていますが大きな差ではなく、演奏スタイルも何も変わっていないように思われます。
 しかし、この演奏は決して悪い演奏ではありませんが、改めて夏のコンサートのCDを聴き直し、二つの演奏を比較してみると両者の間には大きな差があるのでした。そして私は2014夏の演奏の方が圧倒的に素晴らしいと感じたのです。
 何が違うのか?
 音の豊かさが全く違ったのです。
 
 ザンクトフロリアン大聖堂の10秒にも及ぶという残響が2015年のウィーンでの演奏には当然ながらないのです。
 そのため音が痩せていて遅いテンポの音の間に隙間ができてしまい間が保たないのです。
 これに対し2014年夏の演奏では長い残響がいまだ響く中で次の音が重なりまた次の音が重なってそれが一体となった輝かしい音の奔流のようになっているのです。
 この長い残響を最大限味方に付けたのが2014年夏の演奏で、これがユースのオーケストラがこんなにも豊かな音楽を創造することができた秘密だったと思うのです。
 そして言いたいのは、このように音が重なっていく効果はブルックナーの音楽の本質なのではないかということなのです。
 なぜならブルックナーはこのザンクトフロリアンの大聖堂のオルガニストであり、ここでオルガンを弾き、この大聖堂の中で響く音を聴きながら作曲をしていたのです。
 であれば、ブルックナーの音楽が、残響により音が重なっても濁ることのない、いわば音の霧の中から新しい旋律が現れてくる、そうした中でこそ最高の響きを生むものとなることは当然のことだったと思うのです。
 そういうわけでここまでの記事で興味を持った方は是非CDを購入して聴いてみてください。決して損はしないと思います。

5 ザンクトフロリアンの残響:2013年のブルックナー3番

 残響の影響がはっきりわかる動画を見つけました。2013年のブルックナー音楽祭でバローさんが指揮した3番の交響曲の冒頭の部分のリハーサル映像です。
 この年は楽員は前述のように大人であり、動画は先と同じく、もう完成形の通しの演奏になっています。
 残響が消えないうちに次の音が重なってゆき、ペダルを踏みっぱなしのピアノのような音の塊になっていくところが通常のクリアな演奏と大きく違っていると思います。
 普通ならそれは決して好もしいことに成らないと思うのですが、それが悪い方に働かず一つの神秘的な音の広がりになっているところがブルックナーであるように私には思えます。

  ところで、この3番では何か変だなとお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、1873年の初稿が用いられています。
 この興味深い演奏についてはまた稿を改めて記事を書いてみたいと思っています。
 今回はここまで、長い時間お付き合い有難うございました。 



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