美しい術

色は世界誰にでも分け与えられるものではなく
色は世界みんなで分けなければなりません

キッコンカッコン本鈴が鳴ると
ドッタンバッタン生徒たちが絵の具を奪い合う
階下の校長室では副校長と教頭が座椅子を奪い合い
壁横の音楽室ではショパンとバッハがピアノを奪い合い
残された絵の具だけで僕は空を描いた

「残された絵の具だけで描くというのが美術なのよ」と言って
先生は2と点数を付けた
ぐだりぐだりと色を重ねるけれど
ぺたりぺたりと塗っても
世界は僕の景色と縫い合わない

諦めて水場でパレットを洗っていると
四角い世界にキミがいた

窓外のテニスコートでキミがボールを打つと
べちゃっ
僕の絵には青い壁が現れて

窓外の自動販売機でキミがジュースを買うと
べちゃっ
僕の絵にはオレンジの塊が落とされる

窓外の水飲み場でキミがタオルを頬に当てると
すすいっ
僕の絵には白いクジラたちが泳ぎ出した

ガチャンッ

窓下の小道でキミは目を潤ませていて
僕はボールをキミが受け取りやすいように放り返す
ありがとうと笑顔で手を振るキミに頭を下げて
それから絵の左下にキミの名前をサインした

やがてそれは僕の遺影となり棺上に掲げられ
キミは知らない誰かと知らない場所で眠ってる
神様はあの絵に何点を付けてくれるだろうか