【日記】電車を待った。

「白線の内側に下がってお待ちください」

いつもの鼻にかかった声が駅構内にかかっていた。
白線の内側に下がろうとしたけれど、白線はどこにもなかった。

「白線は自分で引いてください」

いつもの鼻にかかった声が駅構内にかかっていた。
自販機の横にポツンと置かれた赤いライン引きを転がし、白線を引いた。

「白線の内側と外側は自分で決めてください」

いつもの鼻にかかった声が駅構内にかかっていた。
読みかけの本に栞を挟み、白線の内側に立った。


「白線の内側に下がってお待ちください」

いつもの鼻にかかった声が駅構内にかかり、突風が激しく身体を駆け抜けた。
白線の内側は、向こう側だったのかもしれない。