見出し画像

僕ってとことん気分屋だったりするから。




学校の人と一緒にご飯を食べるために早めに準備をして家から出たのに、電車に乗っていたら、急にその気分じゃなくなった。

そういうのってよくあるんだ。僕ってとことん気分屋だったりするから。


早く出るために急いでいたから、ほんとにちょっとしたことなんだけど、母との会話がうまく運ばなくて、急いでいたからいつもみたいにフォローもできないまま、若干冷ややかな雰囲気の中家を出た。母も起きたての顔に10回近くチューをした愛娘を、数10分後にはこんなにも憎たらしく思うなんて思いもしなかったろうね。

一応母もそろそろ家を出る時間だったから、「鍵かけとく?」なんて声をかけてみたけど 、返事が返ってくるわけもないんだよね。

今回の冷戦はどれくらい続くんだろうかと、道端で靴紐を結び直しながら考えてたんだ。考えても仕方のないことなんだけどさ。

こういうのって結構参っちゃうよな。

でもそういうことってよくあるよね。一緒に生きているとさ、どうしても。どうしたものかと考えても、どうもしようがないんだ。僕としては毎回結構きっちり落ち込んじゃったりするんだけどね。困ったことに。

勘違いしないでほしいのは、母はものすごく可愛らしい人なんだ。私は同年代の知り合いの母親の中で、自分の母以上に美しい人を知らない。決して他人の母がダメと言ってるんではなくて、それだけ美しく、すぐ拗ねちゃうような可愛らしい人ってことが言いたいんだ。念のために言っておくけど、別に「恋人補正」の母版みたいなのが入ってるとかそう言うんじゃなくて、ほんとうに素敵な女性なんだ。君も彼女に会ったらきっとそう思うよ。

そんな素敵な女性の子供がこんなのかって思うと、時々耐えきれないくらいに落ち込んでしまうんだ。だってこんなのってないよなって、思わずにはいられないんだ。だから僕は基本的に反抗なんてしないし、母の評判に影響が出ないように、迷惑をかけないようにと外面を良くしたりしてる。反抗なんてできたものじゃないね、想像を絶する母のかわいそうさに想像もしたくない。外面がいいのはまあ、ほとんど自分が生存しやすいためにやっているのも事実なんだけどさ。女ってつくづく生きづらいっていつも思うよ。男もそうなんだけど、女ってかなり別のベクトルで生きづらいんだ。


食事については約束をしてないから、いくらでも理由は後付けできる。僕はこれでも約束をしたんなら守りたい主義でね、だから簡単に約束なんかしてやらないんだ。しなくちゃならないことなんて、少ないのに越したことはないよ。真面目な話。

気が変わって急がなくて済むようになったところで、急にカフェのあのオレンジ色のライトが妙に恋しくなって、乗り換えへ向かう進路が駅内のカフェにスライドして行った。


オーダーが自分の順番になった時、ひとつ前の女の子が躓いて、ドリンクをこぼしてしまったんだ。それはもう盛大に。

あちゃー...

何にも出来ないかもしれないけど、とりあえず近くに寄って声をかけた。こういうのって結構大事だと思うんだよね。

自分が公共の場で何か少しやらかしてしまった時を思い出して欲しい。誰にも声をかけても、見向きもされなかったら、やらかすやらかさない以前に、まるで自分が透明人間になってしまったような気になってしょうがないだろ。ああ言う時って凄く落ち込んじゃうよな。声をかけられた方が恥ずかしい人もいるだろうし、物事によっては見てないフリをするのがかえっていい時もあるから、そこは君の裁量にかかっている。

かばんを持ってあげる必要もないくらいに、店員の対応が早かったから、それなりの笑顔を浮かべて、注文に戻った。

ホットのカフェモカでお願いします。

注文を聞く店員も些か注意がそのハプニングに向けられ、「ホットでよろしいですか」と聞き返してくる。

はい、ホットでお願いします。

そういうのもよくあるよね。凄くわかるよ。僕としてはアイスが出てきても何も言わずに喜んで飲むから、実際のところなんでもいいんだ。美味しければ。

そのカフェモカにはクリームが乗っかってるんだけど、どうしてこうもうまいんだろうねクリームって、飲むたびに感動してるよ。すこしビターなモカとクリームの甘ったるさの相性がもう堪らないんだ。

クリームの周りが熱で少しぷくぷく泡立つのをじっと観察しながら、僕は考え事をしたりしてるわけなんだけど、何をそんなに考えることがあるんだと言われればそれで終いなんだけど、常に何か考えてないと気が済まない性格だから、僕としてはどうしようもないことなんだ。とにかくどうしようもないことがいっぱいなんだな、まったく。


小休止のあと、大人しく学校に向かおうと電車を待ってるときに、地面で電線の影になっているところを綱渡りみたいに歩いてみた。堂々と歩けるところを歩けばいいのに、どうしておまえはいつもそうやって自分で歩きづらくさせちまうんだよと思った。

少し前に真っ白な上着と真っ黒な上着を着た男女が腕を組んで立ってて、白で黒を挟んだら白になるし、白を黒で挟んだら黒になるんだけど、さてどちらが勝つだろうかと考えてみたりもした。混ざり合って灰色になるみたいなつまらない話はよしてくれよ。勝負がつかなければ、僕としてはもうきれいさっぱり興味を失うわけだ。


橋の下の階段で通行人の影が2つ揃うのを待ってたんだけど、なかなか現れないから、諦めてとっとと行ってしまった。


2023.12.8   星期五 晴れ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?