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【UW映画感想】#2『グッド・ウィル・ハンティング』【タケウチユウイ】

"あの夏の環状線"

光を集める癖があった。
素敵だと思った光を見つけては忘れないようにメモをつけていた。
"2011年5月4日 朝7:30 1Fの小窓から差し込む光。タバコの煙に乱反射して、起きた時に舞い上がった小さな埃がきらきらと輝いている。"
こんな具合に。翌年も同じ時間にその光が差し込むかどうか確かめるために付けたメモだけれど、大抵忘れてしまう。
ただその中でも忘れられない光がいくつかある。

大学3年の夏休み。当時の僕は仲の良い近所の友人達と遊びに行くことが多かった。ビリヤードをしたり、カラオケに行ったり、普通の大学生と何ら変わらない過ごし方をしていた。その日は行きつけのカラオケが埋まっていたこともあり、一つ離れた駅のカラオケにフリータイムで入った。だいぶ夜も更けた朝4時頃、眠りについたものを起こして会計を済ませて外に出た。
僕ら以外誰もいない街。あるのはコンビニから漏れる電灯と朝刊を配るバイクの音だけ。普段は渋滞している環状線も今は一台も走っていない。
僕らはその環状線に出ると、片側三車線の真ん中の車線を家に向かって歩き始めた。環状線は紫と橙色が混じった光に包まれていて、眠気もあってか夕方と区別がつかなくなるような光景だった。
その中を陽に向かって無言で歩き続けた。それぞれがバラバラと適当な距離をとって。
家に着く頃には見慣れた朝の景色になっていたわけだが、僕はあの時の光を忘れることはないだろう。

映画"グッド・ウィル・ハンティング"でも同じような光景が描かれている。
マットデイモン演じるウィルとベン・アフレックが演じるチャッキーと仲間2人がハーバード生の多く集まるバーでヒロインであるスカイラーと出会うシーン。スカイラーを取り巻くいけすかないハーバード生をウィルが論破し、電話番号を交換し店を出る。
夜が更けていく街の中をチャッキーの運転する車で駆け抜けていく。車内の4人は誰も目を合わせることも会話することもなく、それぞれが窓の外に目をやる。Elliott SmithのNo Name #3 がまだ街灯の灯るボストンの街をそっと彩る。
このシーンを見るといつもあの出来事が重なって思える。
抱えていた先の人生への不安と、変わらない日常への安心が交互に押し寄せながら無言で歩き続けたあの日。
もうあんな風に感傷的になることが少なくなってしまったけれど、この映画を見るたびにあの夏の環状線に帰ることができる。
もし旧友と久しぶりに飲みに行くことがあればその後に観てほしい。
もちろんその時は終電なんか気にしないで、
夜明けの街を歩いて帰って。

タケウチユウイ


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