【UW映画感想】#61『ダゲレオタイプの女』【芳賀隆之】
もう一人の「世界のクロサワ」、黒沢清のフランス映画。黒沢清といえば、回路だのCUREだの90年代Jホラーを牽引してきた男。立教大学時代に蓮實重彦の教鞭を受け、8mm自主映画から始まりその作家性は唯一無二だが結構難解というかシュールというか。ホラーはものすごく怖い。心理的に追い込まれる。そんな彼が全編フランスロケ、フランスキャスト・スタッフという布陣で撮影した本作。を、8年越しにようやく鑑賞。
おもしろかったー。ホラー/ミステリーのジャンルにはカテゴライズされているのだけど、所謂おっかなびっくり系のホラーではない。血も出てこない。淡々とさっぱりもしている。なんだけれども、終始、穏やかな気分になれない。何かが起こりそうな、出てきそうな、いやーな雰囲気が漂っている。それとは相反するような、美しい絵画のような耽美的な映像でうっとりもする。なんというかホラー映画のアートみたいな雰囲気だ。黒沢清がホラーをフランスで撮るとこうなるのか!妙に納得。
タイトル「ダゲレオタイプ」とは、昔のどでかいカメラ装置。人間よりでかくてびびる。写真を撮るのに、被写体を器具で固定(これがまた怖い!)して、60分だの120分だの撮影時間がかかる。劇中のカメラマン親父曰く、ダゲレオタイプの写真で撮影すると、モデルを永遠に生かすことになるらしい。そのせいで、カメラマン親父の奥さんや娘がその装置と親父の行き過ぎた思想に追い込まれていく。何が幻想で何が現実かもわからなくなる。娘役の女性の終始揺らぐ目(眼振というらしい)が、不穏な空気を色濃くする。ラストは、怖さと、悲しさが押し寄せた。余韻がすごく残るいい映画だったが、いい映画と形容していいかわからない取り扱いの難しい映画でもあった。
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