【勉強の方針②】予備校の使い方 ver1.4

要点:予備校を使うことで効率的アップが期待できることは間違いない。
ただし、予備校選び、講座選び、授業を受けた後の復習やアウトプットなど、結局のところ自分で考えて取り組む必要があり、「予備校に入ったから安心」という考えは危険である。ここでは、僕の個人的なオススメ利用法を書いているが、無批判に真似することを勧めるものではない。

1 予備校を使うこと自体は効率的だが、何も約束されてはいない

 合格者への質問として最も多いもの一つが、予備校や予備校教材の利用の有無、利用の仕方に関するものだ。

 僕自身は、ロー入試を受けるにあたり、初学者のときに入門講座を利用し、過去問集も予備校でもらったものを使用していた。また、単発の講座やゼミもとったことがある。ロー入学以降は全く利用していないが、情報を一元化していた教材は伊藤塾の論証パターン(今でいう論ナビ?民法のみ伊藤塾の択一六法も併用)だった。
※初学者のときの勉強や情報の一元化については、別記事で詳述する。もっとも、初学者のときの勉強方法は、本記事の4に少し書いてある。

 結論からいえば、僕は、予備校の期待しているとおりの勉強がちゃんとできるのであれば、間違いなく合格レベルに達する、と考えている。また、特に勉強の初期段階では、効率的な勉強をする上で予備校はとても有効であると思っている。

 ただし、①「予備校の期待しているとおりの勉強」の量が意外に多い②勉強の仕方まで指導してくれる予備校はまだ少なく、結局受講者自らが勉強法を考えなければいけない、という2点から、予備校に入りさえすれば安心というわけではない。
※僕の時代はほぼ伊藤塾しか選択肢がなかったが、最近は、②のフォローに力を入れている予備校も出てきている印象である。ただし、自分自身が経験していないので、それがどの程度おすすめできるものなのかは分からない。

 僕が入塾したばかりの頃、答練や単発講座で会って話すようになった友人が5人いた(全員学部生)。その5人のうち、最終的に、ストレートで司法試験に合格したのは2人、2回目で合格した人が1人、4回目で合格した人が1人、司法試験自体から撤退した人が1人である。
 撤退した一人は、「絶対に予備試験ルートで合格する!」と意気込んでいた頑張り屋さんであった。今考えても、彼が司法試験合格に必要な「能力」を欠いていたとは思えない。しかし、当時の僕は彼に何のアドバイスもしてあげられなかった。求められてもいないのに、余計なお世話だと思ったからだ。
 幸いにも今は、(異端の)合格者として、一応一部の方にご期待いただいている立場にある。せっかくいただいた機会なので、彼と同じような人が増えないように、少しでも受験生の方に役に立つことが書ければと思っている。
※もちろん、不合格=不幸というわではないとは思っているが、合格するに越したことはない。

2 予備校と個人としての上位合格者の相違点

 ん、お前予備校講師も上位合格者だから、真似すると危険みたいなこと言ってなかった?と思われる方もいるだろう。
 こういう乱暴な理解をする人は、そもそも司法試験に向いていない気がする・・・というのは置いておいて、誰が読むか分からないネットの場なので僕が考える予備校といち上位合格者の違いについて、懇切丁寧に書いておこう。わかってるよ!という方は読み飛ばして欲しい。

①予備校の教材は基本的に上位合格者一人で作成しているわけではない
 上位合格者は、「その年のその問題」でいい成績が取れただけであって、全ての論点を正確に理解しているという保証はない。だから、僕としては、予備校の教材、講座であっても、「合格者完全オリジナル教材!」とか「合格者まとめノート」というものは(個人で作成されている場合)危険だと考えている。実際、僕の友人の1桁合格者のまとめノートを合格後に見せてもらったら、基本中の基本である民訴の既判力や刑訴の伝聞の理解に誤りがあり、彼も人間なんだなぁと感じたことがある。
 しかし、多くの予備校教材は、ベースは一人で作成していたとしても、毎年受講者の声や講師の声を受けて、複数人のスタッフで検討の上、アップデートが繰り返されているはずである。したがって、さすがに完全に間違った理解や一講師の主観が生き残っている可能性は低いだろう。また、なるべく「誰にでもわかりやすく」という視点から工夫に工夫を重ねられ、テキストが作成されている(と信じたい)。
 予備校講師が単独で作成している教材の場合、僕なら、「信頼できる経験豊富な講師」が作成したものという限定で使用する(伊藤塾の呉基礎本シリーズなど)。

②ベテランの予備校講師は「自分が(上位)合格したときのノウハウ」を再考している

 プロの予備校講師は、それで食っている以上、信じられないほどの数の答案を見てきている方が多いし、自分の合格後も、司法試験の研究にものすごい時間と労力を割いている。
 誰しも合格直後は「自分が(上位)合格したときのノウハウ」に多かれ少なかれ自信を持っているものだ。しかし、予備校講師は、様々な受講生の指導や合格後の研究によって、「自分が(上位)合格したときのノウハウ」を相対化することができる(というか、せざるを得ないはずだ)。そして、「より多くの人を合格に導くためのノウハウ」について日夜考え、それを伝授してくれようとしているのだ(と信じたい)。
※前回の記事では「上位合格者(予備校講師含む)」と記載しており、予備校講師のノウハウも必ずしも万人に当てはまるわけではない、という趣旨のことを書いている。これと上記は矛盾するように思えるかもしれない。しかし、上記はあくまで一般論+希望であり、実際には予備校講師にも様々なスタンスの人がいる。特に、合格したての若い講師や、修習生が小金稼ぎでやっているアマチュア講師は「自分が(上位)合格したときのノウハウ」にこだわっている可能性があるため、個人的には危険だと考えている。

③予備校は、講師の「顔」(≒勉強のスタンス)が見える
 講義を受けていると、その講師の人となりやスタンスが分かってくる。伊藤塾の例ばかりで申し訳ないが、個人的な感想を交えて説明しよう。
 塾長は、「やればできる、必ずできる」と、努力の大切さを強調されている。しかし、個人的には、彼が天才肌であることは否定できないと考えている。それ故かは分からないが、「人権処理パターン」や「論証パターン」の提唱者であるわりには、それ以外の点ではインプットについてもアウトプットについても一貫した哲学を持ち合わせていないように思われた。むしろ、「できれば読んでみてください」などと言って、アカデミックな話に受験生を誘う傾向があり、「効率化」という点には必ずしも力点を置いていないのかな、と感じた。また、憲法以外にはあまり興味ないらしく、最近の司法試験の傾向を熱心に研究されているようには思えなかった。以上のことから、天才でない僕は、塾長の言うとおりに勉強していては時間がかかると判断した。
 他方、同伊藤塾の呉先生(※1)は、同じくとんでもない勉強量をこなしてきた秀才だとは思うが、アカデミック寄りな塾長とは違い、「司法試験」と戦ってきた方という印象を受けた。呉先生が、インプットの段階で特にメリハリに重点をおいていることは明らかであり、いかに復習しやすいかという視点で、教材に細かく加工の指示をしてくださる。一方で、やはり新司の答案作成に対する方法論は弱いように感じた。以上のことから、僕は、インプットについては呉先生の講義を非常に参考にしたが、論文については、もっと明確な方法論を持っている講師に指導を仰ごうと考えた(結局見つからず、自分で分析する羽目になる)。
 このような違いを、SNSや合格者ブログから読み取るのは困難である。僕が、こんなことを書いているくせに実はめちゃくちゃ勉強していて、知識のゴリ押しで合格した奴である可能性だってある。しかし、おそらく僕と直接話したり、講義を受けてもらったりすれば、「あーなるほどコイツはコツコツ勉強とかしなさそうだな」と納得してもらえると思う笑
 このように、予備校の講座に関しては、ある程度、自分で「合う合わない」が判断しやすい。これに対し、限定的かついくらでも装飾可能な文字情報だけでは、上位合格者(予備校講師含む)のアドバイスが自分に当てはまるものかどうかの判断が難しい。(※2)

※1 僕は伊藤塾長のコースで伊藤塾に入ったが、途中で「少なくとも勉強量を絞りたい自分には向かない」と思い、伊藤塾に交渉して呉先生のコースに切り替えてもらった(詳しくは個別記事で詳述)。それぞれに魅力のある授業をされる方だと思うので、どちらが良いという話ではないが、仮に塾長コースのままだったら、1200時間というわけにはいかなかった思う。
※2 もちろん、ブログやSNSを隅から隅まで読めば把握できる部分はあろうが、ブログの興味のある記事を拾い読みをするだけという人や、TLに流れてきた勉強法の出どころまでいちいち確認しないという人も多いだろう。誤解のないように言っておくと、僕が注意喚起したいのは、実体の知れない「上位合格者」のノウハウにホイホイ飛びつくことであって、受講している講座の担当講師や上位合格者に直接指導を受けたり、SNS上で個別の難解な論点について参考までに解釈を聞いたりすることは非常に有用だと思っている。

 ここまで読み飛ばしてくれた優秀な方のためにまとめておくと、要は、(a) 予備校は一人でも多く合格させることが商売だし、講師もそれで飯食ってるんだから、一上位合格者よりはノウハウの普遍性を追求している (b) 講師にもいろいろいるけど、講義を受ければ、自分と合うか否かは、ある程度わかるはずってことを長々書いただけだ。

3 自分に合わない予備校講座や教材はどうするのか〜コンコルド錯誤に陥らないように

 ここで強く言っておきたいのは、教材や講師が自分に合わないと感じたら、すぐにでも予備校又は担当講師を変えた方がいいということだ。予備校や講師の変更には、お金や手間がかかるケースもあるだろう。しかし、「もう入塾しちゃったから」「高い買い物だったから」という理由だけで、その予備校や講師と心中する覚悟を決めてしまうのは非常にリスキーである。むしろ、お金で時間や労力を削減できるならよいという考え方もあるのでは。
 もちろん、予備校や講師が合わないけれど、どうしてもお金がない等の事情で変更できないという場合もあるだろう。その場合にも、少なくとも、予備校のカリキュラムや講師に盲目的に従うのではなく、本当にこの講師のやり方は自分に合っているか?という視点を持つことは必要だと考える。根本的な解決にはならないが、講師の勧めるやり方が唯一の正解ではないというと思うことが、自分に合ったやり方を模索する第一歩となるはずだ。

 また、現在予備校の利用を検討中の方は、手間に思えても、必ず事前に無料の体験講座を受講したり、説明会に参加されることをお勧めする。「定評ある予備校だから」とか「他より金額が安いから」という理由だけで予備校を選択すると、時間とお金を無駄にする可能性がある。ネットで評判を検索したり、先輩の話を聞いたりするのも参考にはなるかもしれない。しかし、やはり一番は自らの体験をもって、判断することである。
※同じことは基本書などの教材選択にもいえることであるが、別記事で詳述する。

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