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音声文字起こし技術がもたらすバリアフリーな行政サービス

今回のレポートは、2022年に三木市障害福祉課の課題「誰一人取り残したくない!コロナ禍で以前よりコミュニケーションが難しくなった難聴者を支援したい!」に取り組んだ記録です。

手話をひとつの言語として考えている三木市

三木市では2019年に「手話言語条例」を制定し、手話に関する各種施策を推進してきました。
しかし、コロナ禍で一般的となったマスクの着用やアクリルパネルの設置によって、難聴者や聞こえにくい方とのコミュニケーションにおいて新しい課題が生まれています。実際に障害福祉課では難聴者・聞こえにくい方から、マスク着用によりコミュニケーションが難しくなったとの声を受けています。

かねてから要約筆記者や手話通訳者によるサポート体制を準備しているものの、特殊な技能が必要なため、1日に対応できる人数に限りがあること、また、将来的な人材の確保も課題となっています。

さらに、現状では、要約筆記者は月・木・金しか障害福祉課にいないため、要約筆記者が不在の日に難聴者がお越しになった場合、他の職員が筆談にて対応しています。その中で、コミュニケーションがうまくいかないといったこともありました。

自動文字起こしサービスを開発した 株式会社時空テクノロジーズ

事業者選考の結果、株式会社時空テクノロジーズの提案が採択されました。同社は「誰でもかんたんDX」を掲げ、リアルタイム3D技術、オンライン通信技術、VR/AR、アバター、AIなどを駆使して、コミュニケーションにまつわるソリューションを提供しています。

同社のサービスの中で、主に議事録作成向けに開発された、AI音声文字起こしサービス「議事録革命!!ログミーツ」を転用することで、相手が話している内容をリアルタイムにテキスト化し、相手の話を「読んで聞く」ことができるという提案です。

(「読んで聞く」のイメージ図)

音声文字起こし技術を使った実証実験開始

窓口等で難聴者と職員とが支障なくコミュニケーションが取れるよう、現行の「ログミーツ」をもとに、専用タブレットシステムを開発する必要がありました。録音された音声がログミーツ本体のモニターに文章に変換されて表示されますが、読みやすいように専用タブレットに表示される仕様に変更しました。

(左:ログミーツ本体 右:専用タブレットの表示画面)

実証実験は、障害福祉課や介護保健課の窓口、また、聴覚障がいのある職員との会話で活用されました。

2022年12月の三木市による報道発表は、1月に神戸新聞での報道や、地元のサンテレビの番組での放送につながりました。

(テレビ番組の様子)

市民の利便性向上へ

実証実験での市民や職員からのアンケート回答は以下でした。簡単で誰でも利用でき、コミュニケーションが円滑に進んだことがうかがえます。

以下のように、利用する日時と場所が拡大され、市民の利便性向上に貢献しました。

さらに、副次的な効果として、これまで大声で耳元で話す必要があり、場合によっては、他人に聞かれたくない話を周囲に聞かれたり、聞こえないことが周りの人に伝わってしまうなど、プライバシーの配慮が難しい場面もありましたが、画面で文章を読んでもらうことで、その方の個人情報を守れるようになったことも挙げられます。

今回の実証実験では主に窓口での対応となりましたが、今後は職員同士の会話の場や、市民が参加する議会などへ活用の場所を広げることも想定しています。時空テクノロジーズ社は、「正確性・視認性・操作性(UI)の向上、多言語対応、話者の識別など様々な課題に、現場の声を聴きながら、サービスの向上に努めたい」と三木市との協働を続けることとなりました。

成果報告会でサービスのデモをしている様子

実証実験を終えて

難聴者や聞こえにくい方への窓口などの対応改善につながる今回の実証実験について、三木市の稲垣さんは、「今回実証実験を行う中でハード面での改善だけでなく、私たち職員側がゆっくり・はっきり話すことの大切さや、『大きな声で話すことが、その方の個人情報を周りに漏らしているかも』と配慮する必要性に改めて気づけたこともいいきっかけでした」とお話しくださいました。

本実証を担当したプロジェクトマネージャーは、「話したことが、リアルタイムで精度が高い文章で表示されることに驚いた」と話します。また、「短期間で、目に見えて改善がわかる本実証は、やりがいを感じた。高齢化でこのような技術がこれから求められると感じる」とコメントを寄せてくれました。

「要約筆記者の配置がある日に行く」という生活スタイルから、「いつ行っても同じ質の行政サービスを受けられる」という状態に変わることは、情報バリアフリー社会実現の一歩と言えます。
テクノロジーが、全ての人が共に社会の中で平等に生活を送れる共生社会の構築に貢献できる事例となったプロジェクトでした。

本プロジェクトの結果を受けて、ログミーツは「ひょうご新商品調達認定制度」の第18回認定商品に選ばれました。本制度は、「ひょうご新商品」に認定された製品を県機関が購入する場合は、随意契約の対象となる制度で、兵庫県全体での利用促進が見込まれます。
ひょうご新商品調達認定制度サイト:https://web.pref.hyogo.lg.jp/sr10/shinshohin/index.html

また、本製品でのデジタル田園都市国家構想交付金(デジタル実装タイプTYPE1)の獲得に向けて動いています。本交付金(TYPE1)は、横展開を基本としておりますので、三木市を実証団体として他の自治体にも広まればと思います。

<プロジェクト概要>
2022年度 兵庫県 三木市
誰一人取り残したくない!コロナ禍で以前よりコミュニケーションが難しくなった難聴者を支援したい!
https://urban-innovation-japan.com/project/hyogo-pref/2022-2/deaf-communication/

<採択企業>
株式会社時空テクノロジーズ

ジチタイワークスでの記事(2023年06月20日)

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