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絶海の孤島で繰り広げられる首切り合戦「クビキリサイクル」西尾維新|戯言シリーズのはじまり 

自分ではない他人を愛するというのは一種の才能だ。他のあらゆる才能と同様、なければそれまでの話だし、たとえあっても使わなければ話にならない。嘘や偽り、そういった言葉の示す意味が皆目見当つかないほどの誠実な正直者、つまりこのぼくは、4月、友人玖渚友に付き添う形で、財閥令嬢が住まう絶海の孤島を訪れた。けれど、あろうことかその島に招かれていたのは、ぼくなど足下どころか靴の裏にさえ及ばないほど、それぞれの専門分野に突出した天才ばかりで、ぼくはそして、やがて起きた殺人事件を通じ、才能なる概念の重量を思い知ることになる。まあ、これも言ってみただけの戯言なんだけれど――第23回メフィスト賞受賞作

小説について

「クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い」は、2002年に講談社ノベルスで刊行された西尾維新のデビュー作で、その後に続く「戯言シリーズ」とそこから派生した「人間シリーズ」や「人類最強シリーズ」の記念すべき一作品目になります。

西尾維新といえば、「物語シリーズ」や「忘却探偵シリーズ」「美少年探偵シリーズ」、コミック発の「めだかボックス」など多くの作品が並んでいますが、「戯言シリーズ」も人気シリーズのひとつです。
第二十三回メフィスト賞を受賞した本作はミステリをおおいに含んでおり、西尾維新の作り出す独特の世界観は多くのファンに愛されています。

また、2023年2月8日に発売された「キドナプキティング」はシリーズ完結とされていた「ネコソギラジカル」の発売から約14年ぶりの最新作です。

【ここが面白い!】ミステリ×キャラクター小説

本作は絶海の孤島である「鴉の濡れ羽島」に五人の天才が訪れたことによって殺人が起こるというミステリー小説です。
メフィスト賞を受賞したということもあり、密室殺人の謎や首切り死体を作った犯人捜しは面白く、単純にミステリーとして楽しめます。
しかし、ミステリ要素だけでなく、キャラクターたちの個性や主人公の思考が強烈に描かれているのも大きな特徴であり魅力です。ライトノベルが好きな人など、普段ミステリをあまり読まない人でも楽しめるのではないでしょうか?

感想

初めて読んだのはわりと前の話になりますが、今回続編が出るということで改めて読み直しました。
ライトノベルのような小説も多い西尾維新作品ですが、このクビキリサイクルはどちらかというとミステリ要素を多く含んだ物語でした。

一度目に読んだ時と二度目に読んだ時の違いがあるとすれば、一度目のときは人生初の西尾維新であり、二度目の今回は七十冊ほど他のシリーズを読んでいたというところです。
ミステリ小説の側面と、キャラクターの個性や会話のやりとりを楽しむ面があるのが特徴だと思いますが、先の展開を知っているとまた違う面白さを感じました。
たとえば、結末を知っている身とすれば、割と序盤に哀川潤の登場を匂わすシーンが出たときに、いーちゃんが「怪獣のような人というのは失礼なのでは?」と疑問を持つシーンがありますが、これは今後の立ち位置を考えると面白く、思わず笑ってしまいますね。
まさに『怪獣のような』人物ですから、失礼もへったくれもないわけです。
他にも、一回目の殺人が行われた後に、占い師の姫菜真来と逆木深夜が夜通し話をしていたというシーンは一体何を話していたのだろうか、とか。
当然のように姫菜真来は全てを知っていたわけだろうし、悲嘆に暮れていたようにみえた深夜は実は全く違っていたわけですし。何か意味のある話をしていたのかもしれないし、やっぱり何の意味もない話をしていたのかもしれません。

思えば、冒頭から殺人のシーンが起こるまでが長い話は西尾維新作品では珍しい気がしました。大体の話が冒頭に事件が起こる印象があるし、冒頭じゃなくても割と早い段階で「何か」が起こる印象です。
「化物語」は戦場ヶ原にカッターナイフを刺しこまれますし、「新本格魔法少女りすか」なんて冒頭に四人も電車に巻き込まれます。
ジャンルが違うというのもあるでしょうが、なんだか不思議に感じていたところ、それはインタビュー記事に答えが書いてありました。

記事によると、続編の「クビシメロマンチスト」は三日で書いたのに対して、本作は二カ月かけて書いたそうです。
二カ月かけて書くのも十分すぎるくらい早いような気もしますが、クビキリサイクルだけ別格に重厚なことも納得できるエピソードでした。

最後まで読み切ってしまうと、やはり作品の完成度には感嘆しました。
キャラクターの一人一人が主役級にクセのある性格で面白く、殺人の仕掛けやトリックも最後の最後まで飽きがなく楽しめました。初めて読んだ時、主人公が事件を解決する頃には自分自身もほぼ同じような結末を思い描いていたのですが、最後の最後になってどんでん返しで哀川潤がすべてをかっさらっていく感じは爽快であり、正解を見つけたつもりが気持ちよくやられてしまいました。
やはり、哀川潤が最高に良いです。
気持ちいい性格をしているし、こんなに完成しているキャラクターは存在しているだけで満足感があります。
小説やアニメの中で最も好きなキャラクターを聞かれれば、「哀川潤」と答えてしまえるかもしれないくらいには気に入っています。


時折、西尾維新作品を読むと主人公の思考が脳みそに流れ込んでくるような感覚に陥ることがありますが、今でこそは「戯言だけどね」と思えても、もっと年齢が低いときに読んでいたら中二病が爆発していてもおかしくないような世界観と雰囲気はやはりそれだけの魅力があるのだと思います。
戯言シリーズが刊行されていた当時はまだ存在を知らない上に本を読まない小学生だったので、この令和の時代に最新作を読めるのは喜ばしいことです。
十年以上の時間が経った今、最新作の続編がどのような物語になっているのか楽しみです。


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